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先生~二人のだけの秘密~
恋愛リレー小説 - 理想の恋愛

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先生~二人のだけの秘密~ 5

「…上田先生は明日から学校にいらっしゃいます。なので病院にはお見舞いに来ないようにとの上田先生からの伝言です」
クラスメイトから不服そうな声が二、三あがる。
教科担当の澤村先生が手を挙げてそれを制して続けた。
「皆さんの気持ちは解るけど、病院に押しかけると他の患者さん達に迷惑でしょう?先生の怪我はたいした事では無いそうですから明日いらっしゃるのを待ちましょうね」

澤村先生の説明はそこで終わりを迎え、いつもの授業が始まったのだった。
授業が終わり私はみんなとの寄り道をパスして校外へ。
目的はふたつ。
ひとつめは先生の自転車を回収する事。
先生が大切にしていたのを知っていたから。
今朝みたいに早く登校してきたある日、教科準備室に自転車を運び入れる先生を見かけた時の事だ。
「上ちゃん、おはよう」
「おはよう相原。早いな」
後輪を持ち上げてそれを手伝ってあげた。
思うより軽いものの、細いフレームが指の熱を奪う。
「駐輪場に駐めないの」
「大事にしてるんだ」

置き終わると、先生はサンキュとグラブを外した手で私の頭を軽くぽんぽんと撫でた。
頭に触れる大きな手に鼓動が乱れたのはフレームと同じ冷たさだったからだ。
とその時は思っていた。

「意味深だね?彼女からのプレゼントとか」
「…まぁ、そんなところだな」
言いながら再び自転車に向ける視線が柔らかくて私の鼓動は再び速くなるのだった。

…って余計な事まで思い出しちゃった。
「彼女から」ってのがひっかかるけど、
「上ちゃんの大事な自転車だもん!上ちゃんのためよ」
大きな独り言ひとつ。先生の通勤ルートを辿るべく止まりかけた足を運んだ。


想像していた車と接触した自転車の無惨な姿と、実際のそれは大きく違っていた。
まるで飼い主を待つイヌのように、歩道の手摺りに立て掛けられるようにしてそこにあった。


事故現場の横断歩道の傍には店が並んでいて、自転車に1番近い古道具屋さんのドアを開いた。
「いらっしゃいませ」
店の主人とおぼしきおじいさんがカウンターから私を老眼鏡ごしに見ている。

そこは絵に描いたような世界。壁には違う時間を指し示す時計が至るところに架けられ、足元には飴色に磨かれた棚。その上には藍色の唐草模様の茶碗や屈折ガラスでできたランプ。
華奢なブリキ細工の写真立てにはボタニカルアートのアネモネが収められている。
「あ、あの。表の自転車」時計のひとつがでたらめな時を告げ、忘れかけていた現実に引き戻された。

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