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先生~二人のだけの秘密~
恋愛リレー小説 - 理想の恋愛

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先生~二人のだけの秘密~ 6

「あぁ、今朝の事故の人のお知り合いかね」
「私の先生なんです」
おじいさんは私の制服を見て納得したらしく、カウンターの引き出しから小さな鍵を持って出てくる。
「自転車を停めてこいつを助けにわざわざ…良い人と言うか、無茶と言うか」
そして傍らにある小さな箱から「こいつ」をひょいと抱き上げて私に見せた。
「あ、そのイヌ」
おじいさんの両手で抱えられたそれは、わたしの『目的その2』だった。
先程までうとうととまどろんでいたらしい子犬は、まだどこか眠たげな上目使いで向かい合う私を見ている。
「よかったぁ。無事だった」
おじいさんから受け取った子犬はプルプルと首を振って私の腕を枕に再びうたた寝を始めた。
「あの人の怪我はどうだい?救急車に乗るのを授業があるからって嫌がるくらいだから、無事とは思うけど。そうか先生だったのか」
再び壁の時計の一つが時を告げる。
まるでここだけが現実から切り取られたような不思議な感じだ。
「先生の怪我はたいしたことなかったです。明日から学校に来るって言ってたし」
「それはよかった」
おじいさんは安堵したように微笑むと子犬の頭を撫でた。
「救急車に乗せられる前に、ここにこいつと自転車を託してったのさ」
「それで、君は先生に頼まれてここへ来たのかい?」おじいさんの質問に、どう答えたらいいのか一瞬迷ってしまった。預かった立場として当然のそれを、予想していないわけではなかったのだけれど。
「頼まれていません…。でも、その自転車が先生の大切なものだって知ってたから。それに先生が怪我してまで助けた犬も気になって…」
こちらになげかける眼鏡の向こうの瞳の優しさに背中を押されたような気がしてわたしは続けた。
「見つけてどうするかまで考えてなかったんです」
しばらくの沈黙。でたらめな時を告げる音が微かに店の空気を震わせる。

「なるほどね」
沈黙を破ったのはおじいさんだった。
「お嬢さんの名前は?」
「あ…相原です」
問われるまま答えると、相原さん、とおじいさんは改めてわたしを呼んだ。
「先生の自転車は私が責任を持って預かろう。助けた犬は…先生が自転車を取りにきた時にでもどうするか相談するとして、それまでは」
おじいさんは再び私の腕で眠る子犬の頭を撫でてみせると、甘えた声でおじいさんの手に鼻を擦り寄せる。
「こいつも私が面倒みる…というのでどうかね?」

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