PiPi's World 投稿小説

先生~二人のだけの秘密~
恋愛リレー小説 - 理想の恋愛

の最初へ
 5
 7
の最後へ

先生~二人のだけの秘密~ 7

「ホントにっ?いいんですか?」
思わず飛び出た大きな声に、子犬がビクリと身じろぎ目を醒ました。
「あ…。ごめんごめん」
慌てて子犬の頭を撫でてやると、大きな黒目がちな瞳が、恨めしそうにわたしを見上げる。
「だから、ごめんてばぁ。もう、騒がないから…ねっ?」

そのやりとりに、堪り兼ねたらしくおじいさんは、くつくつと小さく笑い始めた。
我ながら子供じみていた事に気付くのと、耳まで熱くなるのはほぼ同時で。
「…すみません。つい」
いやいや。と笑いを堪えながら、子犬を箱に戻すおじいさんの様子を、わたしは頭をさげたまま上目使いで見ていた。
「失礼。いや、よく似てたものだから」
似てる?わたしが?
誰にだろう?

頭を上げておじいさんの次の言葉を待ってみる。
おじいさんは眼鏡をずらして、目尻の笑い涙をハンカチーフでそっと拭いながら、椅子に腰掛けた。
「先生も、こいつを助けた後、説教してたから」


「いいか?あんなとこに突っ立ってたら、危ないって事が解っただろう?今朝はたまたま、お節介な人間がいたから助かったけど、次はわかんないぞ?今の世の中、厳しいからな」

…想像できる。しかも、かなり鮮明に。
上ちゃんたら、子犬相手に何やってるんだろ。
…わたしもおんなじだけど…。

「相原さんとは、似た者同志かもしれないな」

おじいさんは微笑みながら、そう言った。
またひとつ、でたらめな時を告げる音が店の中にぼんやりと響いた。
続いて、「すんませ〜ん。パンクしちゃってぇ〜」と、店先で叫ぶ、
毬栗頭の元気な声が、ゆっくりとした時間を掻き消すかのように、響き渡った。

「それでは相原さん、先生に宜しく伝えてくださいな・・」
おじさんは手にしていたハンカチでチーンと、鼻をかむと、
"よこらしょ"と、小さく呟きながら立上がり、わたしに向けて右手を差し出した。

「あいがとう、ホントありがとうございます!」
わたしは両手でおじさんの手を握り締め、深く頭を下げた。

おじさんの手は、肉厚で、今まで握った誰のものよりも、温かった・・

わたしは、毬栗頭の自転車の前に蹲るおじさんの背中に向かい、もう一度口パクで・・"アリガトウ"と、言った。


,
の最初へ
 5
 7
の最後へ

SNSでこの小説を紹介

理想の恋愛の他のリレー小説

こちらから小説を探す