先生~二人のだけの秘密~ 4
「怪我だってたいしたことないし、俺の事は大丈夫だから学校に戻れ。まだ3限に間に合うだろう」
「……………」
…何よ。すごく心配してここまで走って来たのに。
目は口ほどにモノを言うってこういう事なのか
上ちゃんの片方の口角がニッとあがる。
時折みせる苦笑い。
まるでイタズラを見つけられたコドモみたいなそれ。
「ほんとサンキューな」
再び私の頭をぽんぽんと撫でた。
「白状するとさ。たいしたことない怪我でも一人で病院いると不安だったんだ。お前来てくれてなんかホッとした」
私の心拍数、再び上昇。
ついでに体温も。
(心臓に悪いよ)
「けどな」
大きな手で私の髪をくしゃくしゃにされ、我に返る。
「あぁあ〜!毎朝セット大変なのにぃ」
上ちゃんから避難したものの時既に遅く、寝起きの私に戻ってる。
わはは、と暢気に笑う声が恨めしい。
「そんな時間あったらお勉強してください?」
「…説教オヤジ入ってるし」
両手で元に戻しながら、私は少しずついつものペースを取り返していく。
「オヤジって…相原、お前今学期の単位無しな?」
「ひどい!それ職権ランヨウ」
「それ漢字で書けたら単位やる」
ガーン!
カタカナ発音ばれてる。
「…学校行っておベンキョーしてきマス」
「善い心掛けに免じて単位やるよ…半分な」
私は枕元のナースコールスイッチを先生に投げ付け、思いきり舌を出して病室をあとにした。
背後で「病人はいたわれ」の批難を浴びながら…。
「…で、何しに行ったのよ」
亜紀が呆れた様子で私を見ている。
ごもっともと唸って私は机に突っ伏した。
話は数分前に遡る。
先生の言葉に従って戻った学校。3限が終わると同時にクラスメイトが私を取り囲んだ。
みんなは私が病院に駆け付けた事を知っていたから、先生の容態についての情報を知りたがった。
「上ちゃんの怪我はどうなの?」
「入院するの?」
「どうして事故に遭ったの?」
しかし…。
「あ…あれ?」
私はほとんどそれらの問いに応えられなかった。
ただ先生の顔と、腕の包帯を見てわんわん泣いただけだ。
4限目の始鈴と共にクラスメイトはばらばらと席に着き、ぐったり椅子の背に体を預けた私に亜紀のひとこと。
我ながら情けない。
しかし私たちが知りたかった先生の状態は教室に入ってきた4限目の教科担当から聞かされる事になった。
先生は通学中(先生は自転車通学だ)横断歩道で動けない子犬を助けようとして車と接触したのだそうだ。
幸い左腕を派手に擦りむいた以外には外傷はなかったものの、脳波等の検査の為、今日だけ入院するらしい。