四葉のクローバー。 32
「大丈夫ですよ。いつもこれより遅いとき、ありますから」
あ、そうなの?と美紀さんは笑った。
遅いときっていうか遅いのがほとんどだけどね。
「お茶ごちそうさまです」
玄関で靴を履き終えた由香が美紀さんに深々と頭を下げた。
「あら、ご丁寧にどうもね」
つられて俺も頭を下げた。
「すぐそこだけど、送ってくね」
ハジャマに上着をはおっきた美保がそう言って、草履を履いた。
外寒いかなといいながら、二人は先に外に出た。
「じゃあ、失礼します」
「あ、敬太くん」
外に出ようとした瞬間、美紀さんは俺を呼び止めた。
「何ですか?」
「……今日はありがとうね。すっかり美保、元気になったみたい」
「いえ……」
「美保のこと、これからもよろくね」
「は、はい」
よろしくか……。
「フフッ。もちろん、友達、幼なじみとしてよ?」
心はすっかり読まれてたらしい。
いくら暖冬だとニュースでやっていても、夜は寒い。
手を数回こすると、制服のポケットに手をつっこんだ。
由香と美保は寒いねと言いながら、仲良く並んで歩いている。
俺は、うつろげに二人を後ろから見る。
「明日は学校くるの?」
「もちろん!私学校大好きだもん」
フフッと由香は笑うと
「……瑠璃さん、心配してたわよ」
さりげなくあの話をおりこんだ。
「うん……後でメールしなきゃ」
元々美保の家から俺の家までは距離がほとんどないから、あっというまに着いた。
ピタッ、二人の足は同時に止まった。
美保は俺と由香の方へ向き直った。
「今日はありがとう。それと……昨日はごめんなさい」
「…………」
由香の戸惑ってた顔は、美保の顔が上がる頃には笑っていた。
作り笑いではなく、本当に心から笑っているようだ。
と、言ってもそんな区別は鈍感な俺には
わからないわけで。
「何かあったらいつでも言えよな」
こんなことしか美保には言えない。、
「ありがとう」
美保は太陽のような明るい、曇りのない笑顔で笑う。
つられて、俺も顔がほころぶ。
これまで何度となく美保が原因で、
事件が起きてきて、それに巻き込まれたたわけだが、
この笑顔ですべてを許してしまってるのかもしれない。
情が移ってるだけでは、説明がつかないことが多すぎるのだ。