嘘から始まる恋ゴコロ 10
「渚が髪の毛のこと気にしてるのに笑ったりしてゴメン」
祐はどこまで優しいんだろう。あたしは返す言葉を失った。
「渚、泣いてたし、どうしようって思って……」
「それでコレ買ってきてくれたの?」
手のなかのハートのゴムを見て、祐を見た。祐はうなずいて照れたように頭を掻いた。ひとりで雑貨屋に入って買うなんてすごく勇気がいったんじゃないかな? そんな祐の気持ちがうれしくて泣けてきた。また泣き出したあたしを見て祐は慌ててる。
「気に入らなかった?」
「ううん。うれしかったから。ありがとう」
涙をぬぐって、もらったハートのゴムを使ってみた。キラキラのハートが祐に見えるように横でひとつにくくった。
「大切にするね」
「うん」
優しく微笑む祐の姿に胸がきゅんと鳴った。
あたしはもしかしたら本当に祐のことを好きになりかけてるのかもしれない。
*
その日の夜、また夢を見た。内容はよく覚えてないけど祐がでてきて、あたしは笑ってた。ふわふわした幸せな気持ちのまま目が覚めて、迎えに来てくれた祐と学校に行った。
「もしかして渚、矢口くんのこと好きになっちゃった?」
教室に入り、席につくなり亜紀が耳元で囁いてきた。あたしはどきっとして、「なっ、んで?」と自分でもわかるくらいうろたえた声を出した。
「なんとなく」
亜紀はくるりと身を翻し、自分の席についた。もぉ、亜紀ってば。亜紀の意地悪にむっとしながら教科書を机に入れていると、携帯がブルブル振動した。翼からメールだった。翼のほうからメールが送られてくるのはめずらしいので、なんだろう、と読んでみると『元気?』
翼、あたしが昨日元気がなかったのを心配してくれてるんだ。うれしくて、『元気だよ。きのうはありがとう』と打って送信ボタンを押した。
『なぎさ きょう帰りヒマ?』
『暇だよ』
祐は予備校があるから今日の帰りは別々に帰ることになっている。
『亜紀とヒロも誘って映画観に行かね?』
翼と……映画? 行きたい。けど、どうしよう。祐が知ったらいい気しないよね。一応、あたし祐の彼女だもん。あたしは携帯のディスプレイを凝視したまま指がとまってしまった。フリーズしたまま考えてると『矢口もいっしょでいーよ!』
「矢口も一緒でいいよ……かぁ」