嘘から始まる恋ゴコロ 16
それから翼が来るまでの数時間、あたしは落ち着かない気持ちのまま翼が来るのを待っていた。
ピンポーンーーー
チャイムが鳴る。
一度、深呼吸をしてから玄関のドアを開けるといつもの笑顔を湛えた翼がいた。
「おはよ。」
なんとなくこれから2人きりで出かけることに恥ずかしさを覚え、声が上擦る。
「・・・おはよ、ごめん。待たせたかな?」
声が上擦ってしまったのを待ちくたびれたとでも解釈したのか、翼が申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にする。
「ううん、あたしも今、準備できたばっかりだよ。」
自分の気持ちや待っていた・・・という事実を誤魔化すようにへらっ・・・といつものように笑う。
「そっか・・・。じゃぁ、行こうか?」
そう言うと、翼はごく自然に左手をあたしの前に差し出した。
その手を取っていいものか少し悩んでいると
「どうした?」
と首を傾げてこちらを伺う。
なんだか、自分だけが卑しい気持ちを持っているみたいだ。
「なんでもないよ。」
そう言って翼の手を取った。
大きくて暖かい・・・。
そう思って一人どきどきしていると不意にぎゅ・・・っと強く握り返された。
ずっと欲しかった翼の手。見上げたすぐそばに翼の顔があって、そんな些細なことにいちいちうれしくなる。
好きだよ。翼のことが大好き。
あふれる気持ちを抑えきれず、その手を強く握り返した。
「きょっ今日晴れてよかったね」
ドキドキしてるせいで調子外れの声がでる。目を合わせたら翼に気持ちがバレそうで、うつむいたままでいた。そんなあたしのようすに気がついたのか翼がくすっと笑った気がした。それでますます緊張してきて、口が勝手にぺらぺら動く。
「でもさ、二枚もチケットくれるなんて新聞屋さん気前いいね!」
「くれたっていうかふんだくったって言うの? なんか、うちのオバサンが『そんなの一枚だけ貰ったってどうしようもないでしょ』とかなんとか言って強引に二枚もらったんだよ」
言いながら翼は顔をしかめる。あたしは会ったこともない翼のお母さんを想像して笑ってしまった。
ヒロの話だと翼のお母さんは若くて美人なのに口を開くと一転、大阪のオバちゃん顔負けのトークをするらしい。
「じゃあ、翼のお母さんに感謝しなくちゃね」
そう言ったら、翼は「そーだな」と苦笑いをした。
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