嘘から始まる恋ゴコロ 13
「ちがっ…… ただお金のこととか考えてただけ!」
「ふぅ〜ん。お金のことね。それで、渚はどうするの?」
何かを見極めようとするような亜紀の表情。まるで翼に対するあたしの気持ちを試してるみたいだ。あたしはまぶたの裏にある祐の顔と対峙するよう硬く拳をにぎった。
あたしが好きなのは翼だもん…… 自分の気持ちを確かめるように心のなかでつぶやいた。そして、『行く』と返事をしようとしたそのとき、
「――俺はパス」
翼の声にあたしは出かかった言葉を飲みこんだ。
「なんでだよぉ〜。翼〜。一緒に一夏の思い出作ろ〜ぜぇ〜」
泣き真似までして、ヒロはだだをこねる子供みたいだ。
「悪いけど夏期講習があるんだわ」
「ま〜じでぇ〜……」
ヒロはがっかり、といったふうに大きくため息をついた。そんなヒロのようすに、あたしはおずおずと思いついたことを口にした。
「……あのさ、だったら亜紀とヒロで行ってきなよ。あたしが行ってもお邪魔むしだし。ねっ?」
ヒロをなぐさめようとできるだけ明るく言ってみたが、ヒロは元気になるどころかますます肩を落としてうなだれ、「うぅっ……なぎも行かないのかよぉ」と今にも本気で泣き出しそうだ。あたしはぎょっとして思わず翼に目で助けを求めた。翼は苦笑している。
「いいじゃん、それ。亜紀とふたりてラブラブ旅行♪」
「ラブラブ……旅行?」
何を思ったのか急にニヤニヤしはじめたヒロ。次に恍惚とした表情でぼぉっとどこか遠くを見だした。
「翼も渚もよけいなこと言わないで!」
そう言い、亜紀は眉をつりあげながらヒロの頬を思いきりツネった。あたしはそんなふたりのことを笑いながらも、内心、翼と旅行に行けなくなったというのに、がっかりするのと同じくらいホッとしている自分がいることに気づき戸惑っていた。
*
亜紀たちと別れ、翼に送ってもらう道中あたしはどこか上の空だった。話しかけられても的外れな返事をしてばかりいたので翼はあきれていたかもしれない。
家に着き、カバンを置いて窓辺に立つと傘をさして歩く翼の姿が小さく見えた。青いビニール傘が少しずつ遠ざかっていくのを見ていると胸がかきむしられるような気がした。
翼は近くて遠い。
消えたはずのモヤモヤがまたあたしの胸のなかを占拠する。