大好き 3
(え?・・・)
カインの名を聞き、ドキリとした・・・
何故に、高城譲がカインのことを知っているのか、見当もつかなかった。
「あ、ああ・・生瀬カインは友達だけど・・」
俺は訝し気に高城を睨み見た。
「おいおい、怖い顔して睨むなよ。お前、あいつに惚れてんのか?」
「!!なっ!!何言ってんだ!・・な、な訳ねーだろが!!」
俺の言葉に不自然な程に力が入った。
「くくくっ!図星かよ。。お前、馬鹿みてーに正直だなー」
「そ、そんな訳ねーだろが!カインは男だぁぞ!!」
「くくくっ・・だから悩んでるって訳かよ、詰まんねー奴だなー。
生瀬カインはそんじゃそこいらの女よか可愛いし、お前とはお似合いなんじゃね?日比谷裕樹クンよぉー」
「な!何言ってやんがんだぁ!俺は変態じゃねーーー!!!」
俺は高城譲に向かい、飛びかかっていた。
運動マットに石灰が舞い上がる。
俺は必死で拳を上げるが、その腕はあっさりと掴まれ、背に返される。
「お前さー学習ってものが無いのかよ?」
呆れた声の高城は、俺の顔をマットに押し付けた。
「ち、ちくしょ・・」
俺は自分の力の無ささが情けなかった。
この先もしカノジョができ、高城のような不良に絡まれることがあっても、俺は助けることもできないのか?
そんな思いがぐるぐると渦を巻き、鼻の奥がツーンと痛んだ。
「なんだよ、また泣いてんのかよ?」
「馬鹿言え・・!」その声が裏返った・・
「はは・・純なんだな裕樹は。。そんなこだわり捨てちまえ・・」
(な、なんで名前呼び捨てなんだよ?それに、こだわりって?・・・)
『ぐぅえ!@@!』
気がついた時には遅かった。
後ろから、のしかかってきた高城は俺の顎を捻ると、顔を近づけ、ブチュと・・・唇を重ねてきたんだ。
「なっ!・・・何すんだぁ!」
俺は全身の力を使って暴れ捲った。
それでも高城は筋トレでもしているのだろうか?
全くもって歯がたたない。
「ははは!男とだって、どうってことないだろ?
男同士だろーが、好きなもんは好きでいいんだ。変なこだわりなんか、捨てちまいなっ」
「て、てめぇー!!どうってこと無くはねー!俺の始めて奪いやがって!」
「へぇ?・・・始めてって?・・・もしかして、ファーストキス?」
高城の力が緩んだ。
俺はこの時ばかりに身を翻し、高城の腕の中から逃れた。
「ざけんな・・」
腕で唇を拭い、高城を睨んだ。
「悪かった。悪かった。ホントメンゴな。。」
高城は申し訳なさそうに両手を合わせるが、それでも頬はニヤリと上がっている。
「別にモテない訳じゃないんだ。バレンタインにチョコだって貰うし・・コクりだってされんだ・・」
俺は高城にキスされたことよりも、これが始めてのキスだと知られてしまったことに動揺していた。
「ああ・・お前、女にモテそうな面してんもんな・・」
「だからと言って、別に寄り好みしてる訳でも無いんだ・・
ただそうゆー相手に廻り会えなかったってゆーか・・」
「そんで、生瀬カインか?」
「だ、だからそんなんじゃねーって・・」
「でも・・気になんだろ?」
"ああ..."と言う言葉を俺は飲み込んだ・・
それでもその躊躇いは、そうだと言っているようなものだった・・
高城は面倒臭そうに頭をかきながら、ボソリと言った。
「ぼやぼやしてっと、先にやっちまうぜ。」
「や!やっちまうって!?・・」
俺は自分の顏が熱く火照ってくるのを感じた。
突如と飛び出したその言葉が信じられなかったのだ。
「言ったろ?生瀬カインほどの"べっぴんさん"は、そうはいないって・・」
「ちょ、ちょっと待ってよ!だから生瀬カインは男なんだって!!」
その声は小屋内のガラスを震わせるほどだった。
「おっ、お前・・声がデカイ・・」
僕の口は背後から高城の大きな手の平で押さえられた。
「何興奮してんだ?・・裕樹・・」
高城の息が、俺のうなじを熱く撫でた。