アンダンテ 6
「…雛子ちゃん?今日は集中できないかな?」
「…ごめんなさい…とも兄さま…。」
頭のなかは思いを打ち明けることでいっぱいだった。
「とも兄さま…結婚しちゃうの…?」
「え?あ…婚約のことかな?おじ様から聞いたのかな?」
そう言って照れ臭そうに話すとも兄さまをとても綺麗だと思った。
でも、その表情をさせているのが私ではない…。
私ではない…。
頭が真っ白になった…。
何かが壊れそう…。
「…私、とも兄さまのことが好き…。好きなの…。」「…雛子ちゃん?」
「ずっと…ずっとずっと好きだったの。」
あぁ…。言ってしまった。
もう戻れない…
「ありがとう。すごく嬉しいよ。僕も雛子ちゃんのこと好きだよ?」
壊れそうな気持ちに光が見えた気がしたわ。
一瞬の光だったけれど
「でも、僕の好きは君が思ってくれているようなものとは違うんだ。」
薄々気が付いてはいたの…。
「雛子ちゃんは、大切な妹だと思っているよ。」
「…いや…。そんなのいや…。」
「私は…っ…とも兄さまの一番になりたい!とも兄さまが私を選んでくれないのなら…」
私はこの後のことを長い間後悔するわ。
―死んでやるわ…!
私がそう叫ぶと、彼はとても困った顔になった。
私は彼にこんな表情しかさせることができない…
なんて私は嫌な子なの
自分の命と引き替えに彼の自由を奪おうとするなんて…。
急に周りの温度が下がったような錯覚に陥った。
―外の空気が吸いたい…
ふらふらとバルコニーへ近づいていくと綺麗な空が見えた。