アンダンテ 8
前から決まっていた事だったのだけれど、逃げるようにロンドンに留学したわ。予定より随分早く行ったのだけれど。
―母の話は僕には、少し衝撃だった…。
「…今でもその人のことは…?」
「もう昔のことよ。だってお母さんには、お父さんと、恒ちゃんがいるんだもん。」
「いつか…恒ちゃんにも心から想える人ができるはずだわ。その時に、どうか、後悔しないように…。」
僕にはまだ、恋というものはわからない。
でも、後悔しないようにという母の願いに応えられるようにしたいと思った…。
…明日は、また川原に行って見ようかな…。
しばらく胸に巣食っていた淀んだ気持ちが少し晴れた気がした。
次の日、僕は川原へ行った。
でも彼女には会えなかった。
次に僕が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。
―あとどれくらい…。
しばらくぼおっと天井を眺めていると、母さんが来た。
「…恒ちゃん…?…良かった…。気分は?」
ほっとした表情で優しく僕に問う。
「…うん。大丈夫だよ。ごめんね?」
どれくらい眠っていたんだろうか?声が擦れて出にくかった。
「僕、どれくらい…?」
母さんは僕の髪を梳きながら少し泣きそうな顔をして
「5日眠っていたのよ。お父さんも昨日までついていて下さっていたのだけど、お仕事がね…。でも本当に良かったわ…。」
「お医者さまがね、もうそろそろ大丈夫じゃないかって…。手術…受けてみない?」
「もう時間無いのかな…?」
自分の体だからわかるんだ…。
発作が大きくなってきている。倒れてから目覚めるまで時間がかかる…。
手術をしても、成功する確立は…。