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アンダンテ
恋愛リレー小説 - 年下

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アンダンテ 7

 
―とも兄さまに初めて会った日のような綺麗な空…
 
その時のことはよく覚えてないの。
 
 
「…雛子ちゃん!」
 
急に名前を呼ばれて驚いていると、彼に強く肩を引かれた。
 
空を見たくて、少し身を乗り出していたみたいなの…。
いつも冷静な彼が焦った顔をしていたわ。
 
 
秋ってたまに強い風が吹くじゃない?
 
初めて会った日には祝福されているような風も、その日は地獄から吹いたかのように感じたわ…。
私の肩を強く引いて少しバランスを崩していた彼に向かって、強い風が吹いたの。
 
声を出す間もないくらいのことだった。
 
しりもちを付いた私が見たのは、彼の手だったわ。
大好きな彼の手。
繊細にピアノを弾く彼の手。
私の頭を撫でる彼の…。
 
その手が見えたときにはもう遅かった。 

 
彼はバルコニーから転落してしまったの…
 
…どうして彼なのかしら?
私が落ちればよかったのに………。
 
 
 
幸い命に別状はなかった。
病院に謝りに行った私を彼は笑って迎えてくれた。
 
―雛子ちゃんに怪我がなくて良かった。
 ごめんね?僕、勘違いしちゃって…。驚かしちゃったよね。
 でも、もうあんなこと…死ぬなんて言わないでね…?…約束だよ?
 
そう言って笑う彼を見て、私は泣き崩れたの。
なんて愚かなことを言ったのだろう。私の一言が、彼をこんな目に合わせた…。
 
 
それから私は彼に会わなくなった。
何度も訪ねてきてくれたけど、私は決して会おうとはしなかった。
 
激しい罪悪感と後悔に押し潰されそうになり
私を選んでくれない彼への怒りが、心の奥深くに根付き、私を黒く染め、侵食していった…。
 
でも、そんな風に醜い感情に身を置いていたとしても
彼に嫌われたくない
 
こんな自分を見られたくない
 
そう思う気持ちが、彼に会うことを拒んだ。
 
―とも兄さまへ
 お元気ですか?
 お体の調子はどうですか?傷はもう痛みませんか?
 私は今ロンドンに留学に来ています。
 こちらはとても素晴らしいところです。とも兄さまと一緒だったら尚良かったのになぁ…なんて思ってしまいます。
 
 ご結婚決まったそうですね。おめでとうございます。
 まだ心から祝福することはできないけれど、きっと時が解決してくれるはず…。
 いつか、また、兄さまのピアノを聴かせてくださいね。
 
 笑顔でお会いできる日を楽しみにしております…。 
         雛子―

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