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アンダンテ
恋愛リレー小説 - 年下

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アンダンテ 3

発作が起こるたびに僕は命を削っていく。
でも…泣くことも、大声で笑うこともなく、まるで死人のように暮らすことに何の意味があるんだろう…。あの人は、泣きたいときには思いっきり泣いて、笑いたいときには、心から笑うんだろうな…。
暗くなってしまった気分が、“あの人”のことを考えると、穏やかになったことに気が付いた。
…また、会えるかな…

次の日、同じ時間にあの川原へ向かった。
…いた。
近づいていくと、彼女は気が付き笑顔で手を振った。


「おーい!!少年!」
「…こんにちは。」
「こんにちは。また会えたね!」
この日も彼女が一方的に話していた。もともと自分から話すタイプじゃない恒星にとって、聞き役に回ることは苦にはならなかった。むしろ、彼女のことを色々と知ることができ、嬉しく思う気持ちがあった。
彼女はピアノ教室を開いていて、昔は真剣にピアニストを目指したこともあったと言っていた。しかし、才能に限界を感じ、諦めてしまったらしい。今はもうすっかり過去の話になっていて、ピアノ教室の先生として楽しく暮らしていると、穏やかに笑いそう言った。
「ピアノ大好きなんだ。」
不意に彼女はそう言った。
「は?」
改めて言われなくてもそれくらいは感じ取れる。何でいきなり…。
「ピアノが大好きで他の事が目に入らないの。」
何を言いたいんだろう。
「…どうしたんですか?」
彼女は微笑んだまま黙ってうつむいてしまった。
「付き合ってた人と別れたの。」
彼女はそうつぶやいた。
「…え?」
僕はそのことばを理解できなかった。彼女は大人で、そういう人がいてもおかしくないことはわかっている。むしろいないほうが不自然だ。
でも
何故か
受け入れたくなかった
聞きたくなかった
 
「彼に言われちゃったの。ピアノしかないんだなって。つまらないって。」
傷ついてるのに笑って話す彼女に何て言ってあげたら良いんだろう。
“そんな奴別れて正解だよ”
“他にいい人いるよ”
そんな意味の無いことばが浮かんでは消えていく。
慰めたい気持ちとは逆に、そんなこと聞かされても、という気持ちが邪魔をして優しいことばが掛けられない。

僕は何故かイライラしてしまう。
…別に僕が不機嫌になる事でもないのに…。

何故?


行き場のない想いが、僕の心を淀ませる。
 
もう聞きたくない
『僕そろそろ帰ります。』
「え?あ…ごめんね変な話しちゃって…。」
『いえ。』
うつむき歩きだす僕に またね と声をかけてきたけど、返事はできなかった。
 



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