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アンダンテ
恋愛リレー小説 - 年下

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アンダンテ 2


「…あのこれどうぞ。」
そっとハンカチを差し出した。
「ありがとう…。」
彼女は少し驚いたような顔をしたが、すぐに微笑みハンカチを受け取った。
しばらくして彼女が話し掛けてきた。
「きみ…学校は?」
「行ってないんです。」
「ん〜?登校拒否?」
「…事情があって。」
「へぇ〜。高校生?」
「…いえ。中3です。」
「中3!若いね!」
ずいぶんこの人はしゃべるんだなぁ。
それから二人はしばらくそこに座って話した。
彼女は清水朝姫(しみずあさき)という名前で、年は24歳。
泣いていた理由は愛犬のチコが病気で今朝亡くなってしまったからだそうだ。
それから僕らは30分くらい話した。正確に言うと彼女が喋り続けた。
「…ところでさぁ〜…」
「はい?」
「きみの名前は何ていうの?」
「桐生恒星です。」
「へぇ〜!かっこいい名前してるねぇ」
「…そうですか?」
「うん!」

…変な人…。

ふと、時計を見るともう家を出てから1時間になる頃だった。
もう帰らなくちゃまた母さんが心配する。
「そろそろ帰りますね。」
「あ、うん。何かごめんねあたしばっかり喋って…」
「いや、楽しかったです。」
『楽しかった』そう自然に出たことばに恒星は少し驚いた。
物心ついてから楽しかったと思えることがあっただろうか…。



ないな…。
恒星はふっと微笑んだ。
「それじゃあ」
「うん!またね。」
…またね…?
不意に言われたことばに恒星は戸惑ってしまった。ぎこちなく小さな声で、また、と言うと彼女は微笑み手をひらひらと振った。
家に帰るとやっぱり母さんが心配していた。
ごめん、と伝え部屋に戻った。ベッドに横になり目を瞑る。
…心から泣いたり、笑ったりしなくなったのは、いつからだろう…。
幼い頃は、どうして自分だけが皆と同じように、遊べないのか理解できずに、母さんに泣き付いたことが何回もあった。
でも、その度に発作が起こった。一番苦しかったのは、母さんの心配する顔を見ることだった。
しだいに外で遊ぶことを諦め、発作が起きないように静かに暮らすようになった。泣き叫んだり、大声で笑ったり、そういうこともしなくなった。

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