〜再会〜 8
「もう…いいから。気にしてないから」
気にしてないはずがない。だけど恋歌はそういうしかなかった。
複雑な気持ちを胸に抱え、薊に後ろ髪引かれる思いをしながらも、窓を閉め更にカーテンまできっちりと閉め…ばたり。
ベットに倒れこんだ。
ハッと顔を上げて、慌てて時計に目をやった。
ウトウトしていたとは言えないくらい、あれから時間が経過していた。
お風呂に入らないと…立ち上がって、ふとカーテンで閉ざされた窓の向こうに目をやる…
『バカ…』心で呟いて部屋のドアへと向き直る。
しかし、恋歌は、どうしても前へ進めなかった。
『もぅ!き、気になるじゃない…』再び窓へと近寄ってカーテンに手をかけて、そぅっと隙間から覗き込んだ。
「な!!」
思わず叫んでしまった恋歌。
そこには、さっきと同じ場所で窓の桟に突っ伏して眠りこけている薊の姿があったから。
まさか、薊、ずっとこのカーテンが開くのを待ってた?
その瞬間、薊とのキスが鮮明に思い描かれた。
何考えてるのよ。あたし…
恋歌は頭を勢いよく振ってその映像を消した。
とにかくあのままだと薊が風邪を引く…そう思った恋歌は仕方なく、−いや実際のところは恋歌にも分からないが−とにかく薊に声を掛けた。
「薊、風邪引くよ」
微妙に肩を動かし、微かな声を出した薊だが…いっこうに起きる気配はうかがえない。
シャツ一枚で何時間も夜風に晒された薊の顔は、色を失い、月夜に蒼く浮かんで見えた。
そんな生気の窺えない薊の顔は、いつもにも増し、妖艶な光を放っていて、恋歌は、目を離せないでいた。
突然、その人形のような顔に触れてみたいという衝動に駆られた恋歌。心の赴くままにそっと覗き込み薊の顔に手を伸ばす。
寸前で、フワリと風が吹いて、恋歌の指先に薊の髪の毛が触れた、その時、
「!!」
顔を上げた薊に伸ばした腕を掴まれ、恋歌は目の前の薊の顔を見つめたまま、固まってしまった。
何も言わずにじっと恋歌を見ている薊。
その二人の顔がゆっくりと距離を失っていく。
キュッと胸が軋むのを感じた恋歌は、逃げることが出来ず、自分でも驚くくらい素直に目を閉じていた。
しかし、唇が重なるその寸前で、薊がパタリと脱力し、再び窓の桟に突っ伏した。
「な!…なんなのよ」
再び深い眠りに陥る薊を見て、真っ赤になってそう叫ぶしかない恋歌だった。
その時、
―カチャ―
乾いた音と共に開いた薊の部屋の扉。
「お兄ちゃん!」
恋歌は驚いて声を上げた。
びっくりして恋歌は顔を赤く染める。
「恋歌…?」
ササラが目を丸めて、恋歌を見据える。
「お…兄ちゃん。」
悪いことしてるわけでも何でもないのに、何故か心臓が高鳴る。