〜再会〜 54
長い時間誰も座っておらず風にさらされ続けていた木製のベンチは、制服のスカートから出された恋歌の足と、今更になって全て聞かなかった事にして逃げ出してしまいたいと思い始めている恋歌の心の逃げを引き締めるには充分な程の冷たさだった。
ベンチの冷たさが気にならないくらいになってから薊は話し出した。
「俺は日本に帰って来てからは、あいつを無理にでも好きになろうとしてた。
《ずっと側にいる》そう言ったから。」
…―ドキッ―…
恋歌は胸が締め付けられた気がした。
「けど、俺はあいつを妹のようにしか思えない。そうわかったんだ。」
「本当は……フランスにいる頃から‥ずっとだったのかもな」
ポツリと呟く薊。
「…え?」
「今思えばあの頃から俺は必死に亜莉朱を女として見ようとしていたのかも知れない。そんなの…始めから無理な話だったのにな」
「…薊……」
「気付いていなかっただけで…。その証拠に俺は最初、亜莉朱を置いて日本に来たんだ」
「え…っ」
反射的に薊を見つめる恋歌。
しかし薊は恋歌と目を合わせる事なく、どこか遠くの一点をぼんやりと見つめていた。
「…俺達が伯父夫婦の葬式の後も向こうに残ったそもそもの理由は、伯父夫婦の残した会社を立て直すためだったんだ。」
薊は視線を動かさずに続ける。
「親父以外に他に兄弟もいなかったし、相手方にも親戚はいなくて会社自体も規模も大きい会社だったから、めどが付くまでと言う約束で親父が後を引き継いだんだ。…幼い亜莉朱の事も‥心配だったからな」
ふっ…。
薊の、小刻みに震えた唇から白い息が空に浮いた。
「好きに、なれるはずがねぇんだよな」
薊が溜め息交じりにその言葉を吐き出した。
「従兄妹、だから?」
恋歌が尋ねた。
あまりに短いけど、直球的な、問い掛け。
「違う」
その問いを一刀両断し、更に一拍置いて薊は告げた。
「恋歌…お前が、好きだからだ」
―と。