〜再会〜 53
─…
『お前のために、だ』
『…え?』
頭の上から降って来た声に亜莉朱は反射的に顔を上げる。
するとそこには真剣な薊の顔。
しかし先程とは違って穏やかな、諭す様な顔だった。
『お前のパパとママはお前の誕生日のために…お前の生まれた日を祝うために出掛けてたんだろ?だからお前のせいで2人は死んだなんて思うな。お前のパパとママはお前のために‥最後までお前の事を想っていたんだ。そう思え。』
ざわめきの残っていた会場内は、また静寂に包まれていて、そこにはただ薊の声だけが響いていた。
.
『でも…』
静寂を破ったのは亜莉朱の震える小さな声。
『アタシは独りぼっちになっちゃった…もう‥誰も居ない…』
そう言って見上げる濡れた瞳に、薊は力強く答える。
『俺が居る』
『…っ』
思ってもいなかった薊の発言に言葉が出ない亜莉朱の掌を、薊はそっと包みこむ。
そして言い聞かせる様にもう一度ゆっくりと【誓いの言葉】を繰り返す。
『俺が、お前の側にいてやる。お前が一人でも立ってられる様になるまで、ずっと』
─…
「それから俺たちはずっと一緒だった。…俺たちが日本に‥この町に戻って来るまでは」
そこまで言って再び恋歌と視線を合わせる薊。
しかし恋歌は目を合わせ続ける事ができずにすぐにそらしてしまう。
だけど話して欲しいと言ったのは自分。もう逃げないと誓ったのだ。
一瞬自分から目をそらした後、またすぐ何か思い直して真っ直ぐに見つめ返す恋歌の瞳に、薊はふっとほほ笑むと、
「寒くなって来たな。」
と呟いた。
薊は自分の手に息を吹き掛けると、その手を合わせちらりと恋歌を見やって
「…どこか入るか?」
と切り出した。
しかし恋歌はそんな薊の申し出にふるふると首を振ると近くにあったベンチを指差した。
「続き、聞きたい。あそこ座って話そ?」
少しでも早く、先を知りたいと恋歌は思っていた。
それは決して興味本位などではなく、ましてや自分の決意が少し時間が経ってしまえば‥どこか近くの喫茶店に移動するくらいの短い間に揺らいでしまう程脆いものだと思っている訳でもなかったが、今、この瞬間に目の前に居る薊の気持ちが知りたい。今この瞬間の。
そう、恋歌は思ったのだった。
「‥そうか。わかった」
そんな恋歌の気持ちを察していたのか、薊は素直にそれに従った。