〜再会〜 35
カチャ…
簓の食器を洗う手が止まる。
「兄ちゃんの気持ちはすごく嬉しかった…ホントだよ?」
「……」
簓は何も言わない。
「でもあたしはやっぱり薊が良い。薊じゃなきゃダメなの。」
恋歌がそこまで言うと簓が顔を上げ口を開いた。
「薊が‥他の子とキスしていても‥?」
ズキンッ!
簓の鋭い指摘に恋歌は一瞬言葉に詰まる。
しかしすぐに「…うん。それでもあたしは薊が良い。」
とはっきり言った。
「‥やっぱりそっか。」
「…え?」
言葉の意味が判らず恋歌は聞き返した。
「予感がしてたんだ、言われるんじゃないかって。だけどわざと気付かないフリしてた。」
意地悪したんだ。と簓は笑った。
「ごめんね‥」
そう言って俯く恋歌の肩に手を置き
「謝らないでよ‥恋歌ちゃん。」
と簓は言った。
「でも‥っ「だから僕も謝らない。」
自分が言い終わる前にそう言い放った簓に恋歌は言葉を失ってしまう。
そんな恋歌に構わず簓は続ける。
「だってそれも恋歌ちゃんが好きだからやった事。僕は恋歌ちゃんを好きになった事少しも後悔してないから。。」
だから‥と少し間を置き簓は
「僕は謝らないよ?恋歌ちゃんも、謝らないで。」
と言った。
「兄ちゃん…」
恋歌の瞳に涙が溢れる…。
それが自分を気に病ませないための簓の優しさだと痛い程判るから‥。
「ありがとう‥兄ちゃん…」
涙を拭いながら心からの感謝の気持ちを簓に伝える恋歌。そしてそれをほほ笑みで受け止め、続けて簓は
「薊にはもう言ったの?」
と言った。
「え‥と、まだ‥」
しどろもどろになりながら恋歌は答える。
「えっ??まだ?!薊からも何も??」
てっきりもう2人の間でも決着が付いていると思っていた簓はすっとんきょうな声を上げてしまう。
「う、うん別に何も言われてないけど‥」
『ちっ‥薊のやつ‥』
「…兄ちゃん??」
「えっ?あぁ、何でもないよ。」
心の中で弟を罵った後とは思えぬ様な極上の笑顔で簓は笑いこう言った。
「まぁともかく今日はもうこんな時間だしいくら明日が休みって言ってもそろそろ帰った方が良いかもね。食事の事、本当にありがとう。」
そう言われて恋歌がふと時計を見ると時計の針はもう10と11の間に来ていた。
「もうこんな時間なんだ!じゃあ‥帰ろうかな」