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〜再会〜
恋愛リレー小説 - 初恋

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〜再会〜 33


初めて明かされた恋歌の気持ちに薊はただ黙って恋歌の背中を見送っていた。そしてそのまま崩れる様にストンと座り込んでしまった。
頭の中では恋歌の言葉が再び蘇える。
─《あたしずっと薊に謝りたかったの‥》─
「そんな事考えてたのかよ‥あのバカ‥。」
誰にいうでもなく薊はポツリとつぶやいた。
─《薊はあたしの事、憎んでるかもしれないけど‥》─
「憎んでる訳ねぇだろ‥?恋歌‥俺はお前が‥っ」
その先が言葉にならず薊はそっと先程まで恋歌の触れていた自分の傷に触れる。
─《…ごめんね。それと‥ありがとう》─
「…っ」
自分の傷の上にある手に自然にぎゅっと力が入る。


「やっと…言えた‥。」
約10年越しの謝罪と感謝の言葉。やっと薊の前で少しだけ素直になれて恋歌の心はフッと軽くなっていた。
引っ掛かっていたのはこれだったんだ。
薊の前じゃいつも意地を張ってつい思ってもいない事を言ってしまう自分には、薊を好きだとかそうじゃないとか言う前に薊を好きになる権利は無いと思っていた。
だから余計に止められない愛しさが苦しく、辛かった。
だけど今日改めて薊の優しさに触れ素直になれた。恋歌を意地っ張りにさせるのも素直にさせるのも薊ただ一人だけ。
─あたしにはやっぱり薊しかいない。兄ちゃんには、謝ろう─
もう迷わない。そうはっきり思えた。
『いつ言おう…今はまずいよね。でも少しでも早い方が…』
「薊、そろそろ上がりそうだって??」
─ドキンっ

そんな事を考えているとニッコリ笑って台所から夕飯の支度をしていた簓が顔を出す。
「えっあぁ、うんっ!!ごめんねっあたしやるよっっ」
『いつ言おう…今‥はまずいよね。でも少しでも早い方が…』


恋歌は、簓の側に歩み寄り簓の顔を見つめた。
その優しい笑顔をこれから自分の言う一言で失ってしまうかもしれない…
そう思うと恋歌の上に重い物がのしかかる…。

『少しでも早い方が…』

そればかりが恋歌の頭をぐるぐると駆け巡る。
恋歌は簓の代わりに台所に立ち、その横で優しくこちらに笑いかける簓を見上げふぅーっ…と息を吸い込んだ。
「あっ…あのね…にっ…兄ちゃん」
「ん…なぁに?」
恋歌の呼び掛けにますます優しい笑顔を振り撒く簓…
「えっ‥と、あたしね‥?」
『頑張れあたし!!』
恋歌はごくんと息を飲み、自分を励ましながらその一言を伝えようと…したその時タイミング良く薊が居間へと入って来た。
「!!!」
「あぁ、薊早かったね。で、何?恋歌ちゃん」
「えっと…その‥」『薊が居たんじゃ言えないっ!』
「おっお兄ちゃんは今日お風呂入る?!」
「え‥そのつもりだけど‥」突然の恋歌の質問にきょとんとする簓。
「そう‥だよね‥」
力無くあははと笑いながら心の中で恋歌は機転の利かない自分を呪っていた。
『そんなの当たり前じゃんっあたしのバカぁっ!』

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