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〜再会〜
恋愛リレー小説 - 初恋

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〜再会〜 32

「うん!」
なんだか少しだけ気持ちが軽くなった恋歌は、簓が用意したタオルを受け取るとパタパタと脱衣所に向かった。
『ちょっと待っ…薊がシャワーを浴びてる…』

年頃の恋歌の脳裏にあらぬ想像が過ぎる…。

―ブンブンと首を横に振りながら邪険を振り払うかのように恋歌は自分の心を落ちつかせた。

『パッと置いてくればいいのよね…パッと…』


―ドクッドクッ…

恋歌の胸が先程とは明らかに違うものが脈を打つ…
恋歌は脱衣所まで来ると大きく深呼吸をした。

サーーーッ

と水が流れる音が恋歌の耳を擽る。
キュ! ガチャッ
蛇口を閉め風呂場のドアを開ける音─‥
『わっどうしようっ!薊上がっちゃった!!』
ドア一枚向こうに確かに感じる薊の気配…。
「あっ薊っっ!」
たまらずドアを閉めたまま恋歌は呼び掛ける。
「タオルっ持って来たから!だから一回お風呂場に‥」
「あぁ恋歌か‥別にいーよ開けても」
「えぇっ?!」
さらりと言う薊に恋歌はすっとんきょうな声を上げてしまう。
『んな薊が良くてもあたしがっ!でも‥…えぇい!いいや開けちゃえ!!』
ここで取り乱すと薊の思う壺だ!と自分を励まし恋歌は恐る恐るその未知の世界へ続くドアを開けた。
「失礼しま〜す…」
「あたしっ絶対見ないからねっ!!」
片手で目を隠しながら自己主張する恋歌。
「わーったから早くタオルよこせよ。」
どうでも良さそうに言う薊に恋歌は暗闇の中手探りでタオルを渡す。
「おら、これで平気だろ」
「え…」
不意に声をかけられ恋歌が顔を上げるとそこには腰にタオルを巻いただけの薊が居た。
「ぅぅわ…っ」
とっさに目を隠そうとした恋歌だがその前に《あるモノ》が目に入った。
薊の肩口、首の後ろの方から鎖骨の側まで覗く古傷…。そう、自分をかばって付いたあの傷跡。
「なに人の体見てんだよ恋歌。…ん?あぁ…この傷か‥」
そんな恋歌の視線に気付き、薊はそっと傷を隠す様に撫でた。
「…まだ‥痛い??」
本当は前に一度後ろの席からその傷を見つけていたのだったが改めて見ると黙ってはいられなくなり恋歌は口を開いた。
「…いや、今は全然」
薊も静かに答える。
「傷…残っちゃったんだね‥」
「俺は男だから‥傷くらいどうって事ねぇよ」

─‥薊は‥優しい‥。あたしは薊の何を見てたんだろう‥
恋歌はそっとその薊の痛々しい傷に触れた。
「……」
薊もじっと動かなかった。
「‥ごめんね?」
恋歌は薊の目を見あげて言った。「この事だけじゃなくて‥今までの事全部‥あたしずっと謝りたかったの」
「恋歌‥」
薊は少し目を細めて恋歌を見つめ返した。
「あたしは幼すぎて‥薊に酷い事、いっぱいしたしいっぱい言った。今更謝っても許してもらえないかも知れないけど‥薊はあたしの事、憎んでるかもしれないけどあたしはずっと薊に謝りたかったの…ごめんね。それと‥ありがとう」
そこまで言うと恋歌は薊の傷から手を放し、
「じゃあ夕飯の支度するからあたし行くね。薊も早く服着て。風邪ひかない様にね」
とにっこり笑って脱衣所から出て行った。

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