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〜再会〜
恋愛リレー小説 - 初恋

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〜再会〜 28

「ふーん‥。で、飯は?」
頭を拭いたタオルをそこらにポイと投げ捨てると薊はどかっとソファに座る。
「ないよ?だから僕が作ろうかと思って。」
「はっ?!」
当たり前のように言う簓に薊は信じられないと言う様な顔を勢い良くそちらに向けた。
「なんだよその顔??」
けろっと言い返す簓。
「てめぇ‥」わなわなと震えながら薊が怒鳴る。
「分かってんのかよ今まで自分がどんな料理作って来たかっ!!」
ラーメンにたくあん、カレーにきゅうり。そう、簓は料理がド下手くそだった。
「…じゃあ薊が作ってくれる?」
腑に落ちない顔をして簓が呟いた。
「俺が?!絶対やだね!!」
ぷいっとそっぽを向く薊に簓は溜め息をついた後、何か思い付いたのかあっ!っと言った。
「…どしたんだよ?」
いぶかしげに薊が尋ねると簓はにっこり笑って「恋歌ちゃんにお願いしよう☆」と言った。
「はぁ?」
 顔を歪ませ、眉間に皺を寄せ、これ以上ないくらい険しい顔を薊は見せた。
「だから、恋歌ちゃんに作ってもらおう。」
 再び、極上の笑顔を見せて簓は言った。
「何でそこであいつの名前が出てくんだよ。」
 血管が浮き出る程強く拳を握りしめて、薊は険しい顔のまま怒鳴りつけた。
「好きだから…カナ。」
 変らず笑顔。
薊は今、自分の兄が一体何を言ったのか分かっていないようで、先程までの醜い表情を一瞬にしてあきれ顔へと持って行った。
 何バカな事言ってるわけ?
そう、吐き出すような顔だ。
「薊、正直にならないといけない時だってあるんだぞ。」
 年上らしい威厳を持って、薊へと近寄る。
「嘘だと思ってるみたいだけど、本気だからね。薊、お前が本気になるつもりがないなら…もらっちゃうよ。」
「…っ」
突然の兄の告白に驚きのあまり目を見開き、言葉が出ない弟を見て簓はフッと笑うと「なーんてね☆」と言ってまたにこっと笑った。そしてくるりと向きを変えると「さて、と‥じゃあ恋歌ちゃんちに電話してみるか」と電話に向かって歩き出した。
「えーと2、4、1の‥」
そんな簓の態度に薊はギリッと音が鳴る程奥歯を噛み、簓の背中を睨むと「お前…本気で言ってんのか?」と言った。

そんな薊の問いに簓は「本気だよ?だって薊は作ってくれないだろう?」と振り向かずボタンを押したまま答える。
「‥っその事じゃねぇよ!はぐらかしてんじゃねぇ!!」
ソファから立ち上り怒鳴る薊に簓のボタンを押す手が止まった。
その沈黙は長く部屋には降り続く雨の音だけが響いていた。
「…冗談だと思うの?」
沈黙を破った簓はまた振り向かずに言った。
─‥ゴクリ
いつもと違う兄の声のトーンに薊は息を飲む。

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