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〜再会〜
恋愛リレー小説 - 初恋

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〜再会〜 24

「そんなに俺が恐いかよ!?」
薊は切ないような、苦しいような、そんな表情で言った。
その表情は今にも泣きだしてしまうような表情でもあった。
そんな薊に恋歌が触れようと手を伸ばしかけた時、薊が恋歌の手をガシッと掴んだ。
「…薊…?」
驚いて瞳を大きく見開き薊を見つめる恋歌。
「なんで…簓に鞄を渡した?何故、お前が届けに来ない!最後まできちんと責任を果たせっ!」
そう言う薊の表情からは先程の哀しさは消え、鋭く冷たい眼差しに変わる。
「なっ、勝手に早退したくせに…何よっ!」
恋歌も負けじと言い返すが、恋歌が言い終える前に薊はスルッと掴んでいた手を離すと窓から出て行ってしまった。
『何なのよっ!本当…勝手なんだから…』
恋歌の頬を涙が濡らしていた。
恋歌は壁に身を預けたまま薊の影が消えてしまった窓際を見つめ暫く固まっていた。
ただただ溢れ出す涙を止められずにいた。こんなにも切なく、苦しい想いをどーすることも出来ない。恋歌は小瓶を手にとり暫く眺めていた。
『私は一体、どーしたいんだろう…』
恋歌自身もわからなくなってしまっていた。




気が付くと恋歌は窓際に立ち人影のない薊の部屋を見つめていた…。
近い様で遠い存在。手を伸ばせば届くのに…届かないような気がしてしまうのは何故だろう…。

この距離は…いつから出来たんだろう…。
小さい時から出かける時は必ず恋歌とササラは並んで歩き、薊が2、3歩後ろを歩く。
…この構図は、ずっと前から変る事はなかった。
今でも埋まらないこの2、3歩は…永遠に縮まらない気もして…哀しくなる。

最近、何で薊の事でしか悩んでないんだろ…。
自嘲気味に恋歌は笑って見せた。何か、こんな高校生活ありなのかな。
 一人での呟きも、最近ではもう慣れた。
誰もいない部屋、電気をつける元気さえなくて…真っ暗な中一人ぽつんとあの小瓶を握って座っている。
もう何時間経ったんだろう、薊がこの部屋からいなくなって。
…薊。
 一言、再び恋歌は呟いた。
薊、好きだよ。
 決して本人には告げないと誓った言葉を…小さな小さな声で吐き出して見る。
好きだよ…好きだよ。
 続けざまにそう零す。言葉と共に…涙も。もう流れないと思った涙が、ボロボロと零れ始めた。


「すみません。」
 階下から男の声が聞こえた。
数秒後、母とその男の楽しそうな笑い声が聞こえたものの、恋歌はピクリとも動く事はなかった。
甲高い母の笑い声も、いつもなら共に笑っているだろう。だが、今日はその声が耳障りで仕方がなかった。
 恋歌は握りしめた右の拳を、クッションに殴りつける。
「うっさいな。」
 小さな小さな声で呟いた。…ガチャリ。
ドアの開く音がし、恋歌の部屋に一筋の光が入る。
「恋歌ちゃん。」
 薊と、同じ声。
「…兄ちゃん。」
 涙でグショグショの顔を見たササラは大して驚いている様子はない。ただ、複雑そうな表情を浮かべてる。
「ゴメン、あの時僕がカバン届けなければこんな事にならなかったのにね。」
 全てを知ってる…と言ったような顔つきでササラは恋歌に謝罪の言葉を零した。
「兄ちゃんの所為じゃないよ…。あたしが渡してって頼んだんだから…。」
 どんどん、声は小さくなり語尾はもう消え去りそうな程だった。その後堪えるように何度も嗚咽を繰り返し…挙げ句の果てには我慢仕切れなくなった、瞳に溜まった何粒もの涙を零した。

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