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〜再会〜
恋愛リレー小説 - 初恋

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〜再会〜 22


「…ったい、痛いよ薊っ!」
普段の薊とは違う冷たい表情に亜莉朱は少しだけ恐くなる…その大きな瞳には、今にも零れ落ちそうな雫を溜めながら怯えた表情で薊を見上げている。
「もう俺に構うなっ!」
そう冷たく言い放つと亜莉朱に背を向け去って行った…。
そして、後に残された亜莉朱はその場に座り込み泣き崩れている…

恋歌は胸がドキドキしていた…自分が言われた訳ではないのに…何故か薊の言葉に胸がキュッと締め付けられた…。
重い足どりで教室に戻ってきた恋歌は、自分の席につくと主の居ない薊の席をボーッと見つめていた…。
そんな恋歌の脳裏に先程の光景が甦る…

どうして…あんな事…。
酷い…酷いよ…薊っ!

そう心の中で呟く恋歌の右目から一筋の雫が跡をつくっていた……。
 薊を好きな気持ちと、薊を怖いと思い始めた気持ちが交差して、微妙な心情を作る。
『兄貴ばっかにかまってんなよ、このバカ女。』
 鮮明に、まるで映画のワンシーンみたくその場面が恋歌の目の前に浮かんだ。
哀しそうな、それでいて強がって唇を噛み締める薊の姿が、先程亜莉朱の前でした表情とシンクロする。
「あっ…。」
 小さな声で恋歌は呟いた。
ササラにばっかり構って、薊なんか興味の対象にもならない程小さな頃。
実の兄に嫉妬した少年が、幼いながらも思いを寄せる少女に放った一言。
 その言葉を告げた時の表情は…伝えることが出来ない程切なげで、哀しげで、強がっていた。
「どっかで見たと思ったら…あの時と同じ顔だ。」
 小さな、小さな声で呟いた。

あの頃は幼すぎて何故、薊があんなことを言ったのかも何故そんな顔をしたのかもわからずにいた…。
けれど、そんな薊に冷たい言葉を吐き出したのは私だった…。
突き放したのは私だった…。

私は…身体だけでなく…薊の心にもたくさん…たくさんの傷を刻ませていたんだね……。

恋歌は左手をポケットの中へ突っ込むとキュッと小瓶を握り締めながら右腕で顔を隠して机に突っ伏すと、もう止めることができなくなっていた涙が目に一杯溜まり睫毛の先から雫となって後から後から溢れ頬を伝っていた…。

その後の授業は、ただボーッと上の空で主のいない薊の席を見つめながら時間が過ぎるのを待った。
結局、薊は戻って来る事はなく担任の先生には『具合が悪いので早退します』とだけ告げて帰ったらしい…。
恋歌は先生から薊に鞄を届けるよう頼まれてしまい、仕方なく重い足どりで薊の家に向かった。
薊の家の前まで来ると、憂鬱な恋歌は立ち止まって溜め息をつく…

「あれ…恋歌ちゃん?」
声のする方へ顔を向けると不思議そうに恋歌を見つめる簓の姿があった。
「おっ…お兄ちゃん…」
「どーしたの?」
と簓は優しく微笑み尋ねてきた。

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