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〜再会〜
恋愛リレー小説 - 初恋

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〜再会〜 3

唐突なその問いに、驚かない筈がない。
大きな瞳を更に見開いて恋歌は驚きの表情をしてみせた。
「ちょっと聞いてるん?」
 悪戯に笑った薊が恋歌の肩を揺する。
「あっ…あんたに関係ないでしょ!!」
 薊に接するとき、何故か言い方がきつくなるのは昔のトラウマみたいなものがあるからだろう。
 ツン。とそっぽを向いたまま、恋歌は薊を見ようとはしなかった。
「なんだ〜いないんだ。」
 薊はそう吐き捨てると、授業のカネの音と同時に黒板の方に身体を向けた。
『だったらどうなのよ!』恋歌は、目の前の、口聞かぬ広大な背中を上目遣いに睨むと、心の中で、そう叫んだ。
 しかし、当の薊は、そんな恋歌の気持ちなど露知らず…その肩は、コクリ、コクリ…と不自然に揺れ始める。
 片身に陽射しを受けながら、細い身体を椅子に預け、心地よい眠りに誘われている薊の姿は、今まで殺風景だった窓際の席をキラキラと輝かせて魅せていた。
 始業のカネが鳴って、まだ三十分と経ってないのに…。 恋歌は、持っていたペンの先を薊に向けた。 
 ペンで突付かれ驚き、変な声を出して、みんなに笑われる薊を思うと嬉しくなって、自然に笑顔が零れてしまう。
 しかし、少し身を乗り出して、薊の背中に顔を近づけた恋歌は、笑顔を失い固まった。
 下を向いた薊のシャツから覗く、細い首筋からチラリと見えたモノ…それは、美しく妖艶な薊の容姿には、似合わない、醜く盛り上がった赤い古傷…首筋に張り付いたその傷が、シャツで隠れた、薊の背中で、更にどんな姿を繰り広げているのか……想像して、ドキッとするような、痛々しい傷だった。
 しかし、恋歌には、その傷に覚えがあった。
「これ…。」
 小さく呟いて、乗り出した身を引いた。
覚えがある・どころじゃない…
もう既に古傷と化したモノは、明らかに恋歌がつけた傷…いや、詳しくは恋歌の所為でついた傷。
 一瞬にして、薊への悪戯心は消えた。
「傷…残ったんだ。」
 淋しそうに俯きあふれかえってくる涙を喉で止める。
 傷を負わして、誤った覚えは一度もなかった。
恋歌が誤る前に薊はいつも誤魔化して、あやふやにしてしまう。何度、恋歌はそんな話をうやむやにする薊に助けられただろう。
 硬く瞳を閉じても、鮮明に脳裏に浮かんでくる薊の首筋の傷…机の上に落とした手のひらをギュッと握り締め、机に突っ伏した。
 『恋歌!逃げろ!!』内耳より更に奥のほうで響いてくる薊の声に、ハッと顔を上げた。
 あの時、資材置き場で、誰にも秘密で飼っていた仔犬に手を伸ばした恋歌の背中を、どこからか飛び出してきた薊がいきなり突き飛ばし、そう叫んだ次の瞬間。
 ―ガラガラガラ−
 大きな音がして、振り返った恋歌の目に飛び込んできたのは、木材の下敷きになった薊だった。
 慌てて駆け寄る恋歌の涙でグシャグシャの顔に、頭を上げた薊が弱々しく笑いかけ『泣くなよ…ブスが余計ブスになるだろ…ホラ…コレ…」と言って、ゆっくりひろげたその手のひらから出てきたのは、真っ黒な瞳をキラキラ輝かせた仔犬だった。 
 仔犬を抱き上げた恋歌に『兄貴が…公園にいる…呼んで来てくれ…』と消え入りそうな声で囁いた薊の声に弾かれて、『お兄ちゃん!お兄ちゃん!』と叫びながら、がむしゃらに走った…。
 恋歌が覚えているのはそこまでだった。
 
あの後、薊がどうなった…とか、兄ちゃんになんて説明したかも…そしてそんな傷をおわしてまでも可愛がってた犬はどうなったとか…記憶にすらなかった。
今、薊の姿を見て初めて思い出した事だから…
「…。」
いじめられてた…ばっかりじゃなかった。彼はちゃんと『男の子』をしていた。女の子をしっかり守ってた、男の子だったのだ。

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