〜再会〜 13
折角、自分の気持ちに気が付いた恋歌。
でも、その気持ちは押し込まなきゃいけなくて…。
閉じた瞼の裏から涙が零れ落ちたがっている感覚がした。
薊は今も、あたしを憎んでるんだ…。
好きになっちゃいけない人を…好きになっちゃった
ってこんな感じなのかな?
静かに恋歌は呟いた。
湧き水か噴水か……はたまた壊れた水道管か…
止め処なく落ちてしまいそうな涙も、どんなに押さえても湧き出る薊への思いも…
誰にも知られてはいけない…私だけの内緒
ずっとずっと…
心の中に閉まってしまおう……
だけど―…
「イタイ…ココが…イタイ…ょ……」
恋歌は、両手で胸を押さえて、布団の中で胎児のように小さく丸まって瞼を硬く閉じた
「恋歌、起きなさい。」
静かに母親の声が、恋歌の耳に入ってくる。
少しだけ、瞳を開く。
朝の光が目に飛び込んできて、痛い。
「学校は?」
「今日は…。」
行きたくない。
恋歌はその一言を口の中に溜めた。
「お腹痛い…から、今日は休む。」
やっとの事でその言葉を振り絞った。
お腹が痛い…ホントはお腹の少し、上。
胸が、胸が痛い。
「そう?じゃあ今日はゆっくり休んでなさい。」
優しい母親の声が、恋歌の瞳の奧に熱い涙を溜めさせた。
「お母さん…」
消え入りそうな声で呟く恋歌
『ん?』と小首を傾げて振り返る母親
『ねぇ、お母さん…薊は私の事…やっぱ憎んでるかな…あんな傷を負わせて知らん顔をしている私の事を…あの時のことを忘れかけていた私の事を…』
そんな事、怖くて聞ける訳もなく……
「なんでもない」とただ呟いて、布団に潜り込む恋歌に、小さく溜息を付いて母親は静かに部屋を出て行った
そして、ひたすら涙を堪えるこめかみ辺りの痛みに耐えながら…いつしかウトウトと…恋歌は眠りの底に吸い込まれるていった
―どうして?…どうして?―
自分の前で、ただ腕組をして立ちはだかる薊
その瞳は、冷たくて……
―そんな目で見ないで!!―
そう叫ぼうとして、恋歌はハッと目を覚ます
ゆるゆると状態を起こし、伏していた視線を起こした恋歌は、仄暗い部屋の中で、目の前の情景に息を飲んだ
勉強机の椅子に揺らめく影の放つ鋭い眼光
「あ、薊!?」
「ん?」
小さい子どもに話し掛けるかのようなその表情。
さっき見た夢と…現実が混同する。
「薊?」
目の前に居る薊に信じられなくて、もう一度名前を呼んでみる。
「具合は?」
最悪…。
口の中でそう呟き、薊のその問いには答えることはできなかった。
「俺の所為?」
何で、この男はこんなに直球なんだろう…。
羨ましく、なる。
頷いても、嘘になる。首を振っても、嘘になる。
半分半分の気持ちで、恋歌はただただ薊に視線を送るだけだった。