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仮面少年の恋
恋愛リレー小説 - 初恋

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仮面少年の恋 32

優梨姉の涙を見ると、僕の胸はズキンッといたんだ。

(優梨姉を泣かせるなんて・・・。何をやってるんだ、僕はっ・・・。)

ゴリ男の言葉が蘇る

『何も変わってない』

その通りだ。外見だけ変わって、調子に乗ってた。
「ごめんっ………!!本当に…ごめん」
一番泣かせたくない人を泣かせてしまった。後悔が涙になって溢れ出す
カッコ悪い 
男なのに、なに泣いてんだ、僕。 
「うん…」
優梨姉はそんな僕を咎めることなく受け入れてくれた。 
変わらなきゃ…
泣かせたくない
守りたい 
いつも笑顔でいて欲しい


ピピピピ、ピピピピ…

「39度」
母さんの呆れた声がふってくる。
「なんで急にこんな熱がでたのかしら」
少しは心配してよ、と言う元気もない。
情けないことに発熱してしまった僕。優梨姉にも西島さんにもゴリ男にも会いたくなかったし、ちょうど良かったけど。あ、三村がいい気になりそうで、それは参ったな。
………まぁ、いいか。
色々ありすぎた。本当に色々。だから、今日ぐらいゆっくり休もう。

「お母さん、パートいってくるからね!おとなしく寝ておくのよ?昼ご飯はおかゆ置いてるからね」
バタバタと準備をする音、最後にパタンとドアの閉まる音がひとつ。
急に訪れた静寂。こんなに家って静かなんだ。
寝返りをうち、ため息を一つ。想像以上に熱のこもった吐息に驚く。
「疲れていたのかなぁ」
大きな独り言。ここ数日で自分に起こった変化についていけなかったのかもしれない。
見た目が変わって周囲の反応も変わって。だけど、弱い自分は変われなくて。逃げることしかできない自分。そんなことがわかっても………
「どうしようもないや」投げやりに呟き、目をつぶる。
今日はゆっくり休むって決めたんだ。


「〜〜〜だからって、〜〜〜ここで」
いつの間にか寝ていたのか。ぼんやりとして意識の中で、微かに人の声が聞こえた。
「でも…〜〜〜」
誰だ?声は一つしか聞こえない。電話してるのかな?

「コウタだってそれは………うん、うん。わかってるけど」
僕?僕がなんだ?というかこの声…
「優梨姉?」
息をのむ音がした。
「とにかく、後でまた電話するから」
それだけ言うと優梨姉は素早く電話をきった。
「起きてたんだね」
「いや、今、起きた、みたい」
「具合どう?」
「まあまあ」
「そう、なら良かった。好太学校休んだって梢ちゃんに聞いてね」
さっきの電話について聞かれたくないのか多弁な優梨姉。
「好太、お昼食べた?」
「いや……今、何時?」
「もう四時だよ。ずっと寝てたの?」
「そうみたい。でも、おかげですっきりした」

ぐっと力を入れて体を起こす。うん、楽になってる。感覚が戻ってくるのと同時に空腹に気付く。
「お腹空いた、かも」
「そうだよね」
「母さんがおかゆ用意してたはず」
起きあがろうとした僕を優梨姉が制す。
「もってくるよ。あ、ほかに何か食べたいのある?」
「いや、別に………あー」
「なに?」
「なんでもない」
「なーにー?気になるでしょー」
「なんでもないって」
「嘘だー。何か食べたいものあるの?」
「だから………」
誤魔化そうとしたが、無駄らしい。
「玉子焼き、食べたい」恥ずかしさで耳が熱くなった。
いきなりの子どもじみた言葉に優梨姉は少しポカンとしてから急に笑い出した。
「なにそれー?好太かわいい〜」
「だから言いたくなかったんだ」
「ごめんごめん。でも、玉子焼きって…ふふ、そっかそっかぁ」
僕の髪をくしゃりと撫でる。
「すぐに優梨姉特製玉子焼きを作ってくるね!」ニコニコしながら、軽やかな足取りで部屋から出ていく。

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