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仮面少年の恋
恋愛リレー小説 - 初恋

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仮面少年の恋 20




「…遅刻」
通りで今日は爽やかな目覚めだと思った。気がしすむまで寝てしまったらしい。…まだ急げば一時間目には間に合うだろう。僕は手早く準備をし、家を出た。
さすがに中途半端な時間なだけあって学生はいない…と思ったら発見。前方100メートルに必死に走る後ろ姿…どっかで見たことある。僕はペダルに力をこめてスピードをあげる。
「…優梨姉!」
「…はぁ…はぁ…あ…こ…た」
随分、息が切れている。
「…乗りなよ」
自転車の後ろをポンポンと叩きながら言うと、優梨姉は一瞬戸惑ったように瞳を揺らした。
「いいの?私、重いよ…?」

そんな華奢な体しといて何言ってんだか。
「どうぞ」
優梨姉がスカートをおさえながら、おそるおそる後ろに乗る。そして、僕の腰に手をまわし………ん!?これって凄い密着してないか!?うわ…ラ、ラッキー!
「じゃあ、行くよ」
さすがに二人だとペダルが重い。だけど、高揚した気分のおかげで全くと言っていいほど重さは感じなかった。
「重くない?」
「全然。このままどこまでも漕げるよ」
「…どこまでも?」
「地球一周できる」
真面目にそう告げると優梨姉は小さく笑った。…良かった、すべらなくて。
「ねぇ、好太…海、行きたいね」
「行きたいねー」

「…行こっか?」
「そだね、夏休みにでも…」
「今から行きたい」
僕は思わずブレーキを握った。当然、自転車は急停止。
「…今から?」
「うん…ダメ?」
「ダメ…じゃないけど…」
優梨姉がそんなこと言うとは思わなかった。
「じゃあ、行こう?」
ギュッ…腰に回されていた優梨姉の手に力が入る。体がますます密着…
―――――っ!!!!!
「行きます!どこまででも!」
「ふふ、海まででいいよ」
力一杯ペダルを漕ぐと自転車はスムーズに動き出した。

今まで止まっていたものが動き出す瞬間…いつも、僅かな悲しみを感じるのはなぜだろう…ふとそんなことを考えた。
この世にとどまっているものは何もない…人はもちろん、動物や植物、建物などの無生物でさえ滅びに向かい時を刻んでいる。
滅ぶことがわかりながらも進んでいかなければならない…そのことが悲しいのかもしれない。
突然の考えは僕の中にすっと染み渡り、不思議な気分のまま僕は自転車を漕ぎ続けた。





「海ーーー!!」
砂浜に向かいパタパタと走って行く優梨姉の後ろをゆっくりと歩く。
海なんて久しぶりだ。
「やっぱ、まだ寒いな」
まだまだ夏には遠い海は閑散としていてどこか寂しい。
「好太!砂のお城、作ろう」
子供のようにはしゃぐ優梨姉に苦笑しながらも座り込み砂から形を作る。砂浜の砂はさらさらと崩れやすく、僕らは湿った土を求め、海へと近付いていった…。
「…誰もいないね」
作る手を止めずに優梨姉が呟く。
「皆、夏になったらこぞって海にくるのに…他の季節は海のことなんて忘れちゃうんだね」
優梨姉の寂しげな声が広い海に響いた。

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