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仮面少年の恋
恋愛リレー小説 - 初恋

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仮面少年の恋 11


西島さんが連れていってくれた安い店は、僕にとっては高い店だった。ファミレスかファーストフード辺りを予想していたのにきちんとしたレストランに連れてこられたうえ、値段をみてまたまた仰天。一番、安いコースで七千円…なんだ、これは新手の嫌がらせか?「西島さん…僕、こんなにお金持ってないよ」
「…え?安い店って言うから連れてきたのに」
…西島さんって、もしかして金持ち?


「安くない、と思う…」
「そうかな?」
西島さんは、本当に不思議そうに首をくかしげる。
「足りなかったら…貸してくれない?」
これは…男として情けないよな。
「うん、わかった」
それから選びきれない僕にかわって、西島さんが色々選んでくれで、結構居心地が悪かった…けど、出てきた料理は値段にみあって美味しかったし、初めて食べるものもあって、楽しいといえば楽しかった。あと、気付いたんだけど…西島さんって凄いお嬢様な気がする…お金のことだけではない、食べ方とか品があるし、店長が挨拶をしにきてたし…。そこで忘れかけていたことが頭をかすめる。
…万引き。

金持ちのお嬢様なのに、なぜ…?
「渋谷君?」
西島さんに声をかけられ、我にかえった。考え事をしていたせいでボーッとしてしまっていたらしい。
「どうかした?」
…僕には関係ないこと。深入りするべきではない。とっさにそう判断した。
「凄く…おいしいなって思って」
「そうだね」
ニコリと笑う西島さん。うわ…やっぱ、可愛い。食事を始めてから西島さんはえらく機嫌がいい。…おいしいものを食べると人は変わるのか?
「渋谷君…聞いていい?」
食後のコーヒーを飲んでいる時だった。何か深刻な話なのだろうか…
カップを置いて西島さんがまっすぐ僕を見る。まっすぐな瞳に戸惑いながら、僕はつい目をそらしてしまった。
「…なに?」
「なんで急に…髪切ったり、服変えたりしようと思ったの?」
…あぁ、何を聞かれるかと思ったら。…話すべきなのだろうか、協力してもらったからには、話すべきなのかもしれない。
それに………
僕の中でムクムクと汚い感情が沸き上がってくる。
一人で変わるのは難しい。でも、西島さんが手伝ってくれるのなら…
なにしろ僕は彼女の弱味を握っているのだ…
西島さんを利用出来る…。
「実は…」
それから簡単に説明した。
説明し終わる頃にはコーヒーもすっかり冷めてしまっていた。…こんなに喋ったの久しぶりかも。
僕はコーヒーに軽く口をつける。冷めてしまったコーヒーは、僕の舌に嫌な後味を残していく…。
「いいなぁ…」
「え…?」
「誰かをそこまで想えるって」
「そ、そうかな」
「それに、偉いよ」
す…凄い照れくさい。僕は自分の顔が熱くなるのを感じて、思わずうつむいた。「………」
…そして、彼女を利用しようとしていた自分が恥ずかしくなった。僕は…汚いことをしようとしていた。
「私も…変わりたいな」
独り言のように呟かれた言葉に思わず顔をあげる。
「なんで…?」
「…そろそろ出よう?」

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