All right 34
「あ、…あのさ、坂本は悪くないんだ。俺が頼んで手伝ってもらってたんだ。」
つばめの左斜め下を向きながら助け舟を出す悟。
「そうなの。ちょっと困ったことになって。坂本くんに助けてもらってたの。」
明希もそれに続く。二人の必死な様子に、つばめの後ろに燃え盛っていた炎が若干収まったかに見えた。
本当なの?と言う視線を流馬に送る。それに必死に頷く流馬。
「…分かったわよ。コンクリ漬けにして太平洋に投げ込むのは止めるわ。」
その言葉にホッとする三人。
…いや、それは犯罪ですよ?つばめさん。
「でも、とりあえず坂本は返してもらうわ。本当に人手が足りないの。」
つばめの様子に、流馬も心を打たれたようだった。
「お二人とも、すみません。俺…行って来ます。」
流馬の言葉に黙って頷く悟と明希。
嵐のようにやってきたつばめが、流馬と共に去っていく姿が闇の中に消えて行くのを見届けると、今自分達が急いでいた理由を二人は思い出した。
「…俺たちも急ごう。」
明希もそれに頷き返す。
そうして二人はまた光の方へと走り出した。
薄暗い廊下を駆ける足音はふたり分。
隣を見れば、悟と並走しているのに涼しい顔をした明希がいる。どうやら心臓の心配は無さそうだ。
それに安心すると、悟は今どんな状況になっているのかに気が付いた。
向かう先には人影はないし、背後から呼び止められることもない。今度こそ本当に、誰にも邪魔されず明希と悟のふたりきりだということに。
しかし手をつなごうとは何故か思えなかった。
幼少の頃からいじられ続けることで無駄に鍛えられた、悟の第六感が警告するのだ。まだ何かある、終わりじゃない。
前方を足音を忍ばせて走っていた悟は、先程より濃くなってきた闇に少し違和感を感じた。
いくら夜になったと言っても月の光くらい差し込んでもいいはずなのに。まったくといって良いほど光が無いのだ。
先程の嫌な予感が胸をかすめる。しかし悟は、考えすぎだと自身に言い聞かせ、今は目的地にたどり着くことだけに集中した。
そんな悟の甘い考えを嘲笑うかのように、二人の様子を闇の中から見つめる瞳があることを、この時二人は気付いていなかった。
ふにゃ、ともクニャ、とも判別しがたい感触の物体が悟の頬を刺激する。
「ぅわぁっ」
「悟?!何、えっ…ひゃぁっ」
「明希!大丈夫か?っうわっ…何だこれ??」
「やだ…もぉ何??」
「明希、無事か?」
やみくもに明希のいるはずの方向に手を伸ばす悟。そこにあるはずの温もりを必死に得ようとする。
「…悟?」
「明希…か?」
お互いの温もりで互いの存在を確認しあう二人。
「怪我、してないか?」
「うん。悟は?」
ペタペタと悟の顔を触って確認する明希。
「俺も大丈夫みたいだ。ってか何だったんだ?さっきの…」
安否を確認しあうと、ようやく凍結していた思考が働き出す。