All right 35
「…もしかして、」
明希が何かを口に出そうとした瞬間に、それまで二人を取り囲んでいた闇が取り払われた。久しぶりに目にする光に、二人は強い刺激から目をかばう。
どうやら、誰かが渡り廊下の電灯をともしたようだ。
光に目が馴れてきた頃、沈黙を保っていた第三者が口を開いた。
「あー…えと、スマン悟!明希!」
「冬??」「冬くん!」
二人の声を見事にシンクロして届けた先には、困ったような表情を浮かべた春山冬が立っていた。
「やっぱりコレ、スキー部の…」
「え?」
全てを理解した明希と対称的に、悟はまだ自分たちが置かれた状況を把握しきれていないようだった。
「ここ、スキー部の出し物の場所なのよ。」
そう言われて辺りを見渡すと、悟の目に天井からぶら下がっている無数のコンニャクが飛び込んできた。
「出し物…ってここがか?何なんだよコレ。」
そこまで言っても何のことだか分かっていない悟に、明希は彼にとって今回が初めての文化祭だったことを思い出した。
「そっか、悟は知らないんだもんね。あのね、スキー部は毎年大がかりなお化け屋敷を作ることで有名なの」
ね?と冬に同意を求める明希に、冬は頷く。
「まだ完成はしてないんだけどさ、どの程度の効果があるか試したくなって…」
呆気に取られる悟をよそに、明希の瞳は輝いていた。
「でも感激しちゃうな。あのスキー部のお化け屋敷に一番に入れたなんて。」
「完成したらこんなもんじゃないよ?…でもゴメンな。まさか悟たちだとは思わなくて。明希大丈夫だったか?」
済まなそうに謝る冬を責める気にはなれなくて。二人は互いに見つめ合うとクスクスと笑いだした。
「さっきのコンニャクだったんだな。すげービックリしたよ。」
「うん。本当に何か出たのかと思った」
「じゃあ、リハーサルは完璧…だな!本番、楽しみにしてろよ〜」
こんにゃくを元の位置に戻しながら、冬は得意気な笑みを浮かべた。
本番。その言葉で明希の危険を思い出し、悟は暗鬱な気分になった。
「……ああ、そうさせてもらうわ」
「何か歯切れ悪いな。悩みごとか?」
「え? あ、いや、別に何でもないって。気のせいだろ」
そう答えても、冬の眉は寄せられたままだ。
悟は場をつなぐために何か言おうとして、ふと、自分の顔が曖昧な笑みになっていると気が付く。これでは何を言っても心配してくれと言っているようなものだ。
悟が何も言えないでいると、冬は吐息ひとつ。
「……ま、言いたくないなら無理強いはしないさ」