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All right
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All right 33

 ひと息。
 少女はやけに満足気な表情を浮かべ、汗もかいていないのに額を拭う仕草をした。
「ったく。坂本、あんた文書係の仕事サボって何してたのよ。ふらっといなくなって、いつまでも戻ってこないし。今は忙しいのよ。解る? い・そ・が・し・い・の。遊んでる暇なんてないんだからね」
 ひとりで強く語り、しかし当然、流馬からの返事はない。
 そこでようやく異変を感じた少女は自分の足元へ視線をやり、流馬がのびていることに気が付いた。
「な、ちょっ、何してるのよこんなときに! 寝てないで起きなさい!」
 めちゃくちゃ理不尽な要求だった。
 自分でダウンさせておきながら必死に流馬の肩を揺する少女に、微妙に引き気味の明希と悟だったが、不意にこちらを向いた少女と目が合ってしまった。
「……げっ」
「あ」
 少女は今ごろ悟たちに気付いたような表情を浮かべて、固まった。
 一瞬、気まずい沈黙。
 それから悟たちの顔をうかがうように、
「……うわ、えっと、あのですね、――今の見ちゃいました、よね?」
「え!?」
 瞬間的に悟の脳裏に浮かんだのは、流馬にぶち当たる細身の脚。はためく裾。そして淡い水色。
「み、見てない!」
 悟は反射的に叫ぶ。
「そんな気を遣ってもらわなくても。やはり坂本に蹴り――」
「いいや、俺は断じて見てないし、見ようとなんかしてなかった! 偶然、たまたま見えてしまったというか、ちゃんとすぐに視線外したし、ほ、ほら、そんな格好なら自然の摂理としてしょうがないだろ?」
「え?」
 明希と少女の声がハモった。
 少女は疑問の表情を浮かべたが、明希はあれだけで悟が見たものに思い至ったのか、冷たい表情を浮かべた。同時に、悟は墓穴を掘ったことに気が付き、全身から血の気が引いた。
「ふ〜ん」
 明希の冷たい視線が悟に突き刺さる。
「???」
「………」
 三者三様の沈黙がしばし続く。
 その沈黙を破ったのは、屍と化していた流馬のうめき声だった。
「う゛〜ん…」
「坂本くん、気が付いた?」
 その声に明希が反応して側に駆け寄る。
「…あ、き…さん?どうして此所に?此所は生身の人間が踏み入れては行けない聖域だと、白い服を着た女性が言ってたのに…」
 「そう、あなたはココにはいちゃいけないはずよねぇ。」
 指の骨をバキバキと鳴らしながら流馬ににじり寄る飛び蹴り少女。
「つ…つばめさん!?」
 どうやらこの少女、名をツバメと言うらしい。両親がその名に込めたささやかな願いは、神には聞き届けられなかったようだ。
 「フフフ、坂本流馬。雑よ…雑務を放り出すとは良い度胸じゃないの。」
 「あ、ああの、ですね?決してつばめさんの言いつけを忘れていたわけではなくですね、これには事情が…」
「事情。そうね。文化祭が間近に迫り、委員は皆必死に仕事をこなしているのに、あなたがそれを放り投げて良い事情があるのかしら?」
 そう言ってニコリと微笑むつばめに、その場にいた誰もが氷つく。

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