All right 32
「いいでしょ悟?坂本くんも?」
「そう…ですね。でも、もっもしもの時のためにですね、明希さんは僕たちの後ろから着いて来て下さい。」
悟もその条件に同意すると、三人は暗闇の中を光の指し示す方向へと静かに、そして素早く移動し始めた。
目指すべき明かりのついた教室は一階の端だ。
特別教室棟は工の字の横棒の一方を右へ、もう片方を左へずらしたような形のため、隣の棟に行くためには一度この棟の端まで行かなければならなかった。それなりの距離がある。
今日は色々なことがありすぎたし、さっきもかなり走らせたためにあまり明希を走らせたくなかったのだが、
「悟、早く行かないとあの教室からいなくなっちゃうかもしれないよ。走ったほうが良くない?」
「うわ俺の気遣いが一瞬で否定されたっ」
「何言ってるの? まずいのは頭?」
「……何でもない」
ともあれ、と気を取り直して前を向き、
「……確かに急いだほうがいいかもな。明希、走っても大丈夫か?」
「うん。さっきもそんなに走ってないし、今日は調子も良いみたい」
「……」
あまり走ってないというのは本当だろうか。今は良くなったが、探しにきてくれた直後は顔色も悪く、あの息の切れ方はちょっとというレベルではなかったような気もする。
「悟こそ、遅かったら置いていくからね」
しかしせっかくの気遣いに悩むのではなく、受けるのが誠意だ。
「残念だけど期待には沿えないな。俺も意外と足速いんだぜ」
あえて明るく答えて、肩をすくめてみせる。
「坂本も、いいか?」
「は、はいっ。大丈夫、です」
今まで悟が竜馬を見たときはだいたい誰かにぶつかったりしていた。だからあまり体を動かしたがるイメージはなかったが、それでも本人がそう言うならと、悟も明希もあえて止めはしなかった。
三人は誰にともなくうなずき合い、走り出そうとした瞬間、
「――坂本・流馬ぁ! やぁっと見つけたっ!」
今まで静かだった廊下に突然の大声、しかも流馬を名指しで怒っているらしいものが響いて、飛び上がらんばかりに驚いた。
あわてて声の聞こえてきたほうを見れば、かなり離れたところにひとりの女生徒の姿があった。
遠すぎるため顔は良く見えないが、声は聞き覚えのないものだった。流馬の名を呼んでいたから彼の知り合いなのだろうかと考えている間に少女は駆け寄ってきて、
「――とうっ!」
いきなり流馬にドロップキックを浴びせた。
蹴りが吸い込まれるように決まるのを悟は呆気に取られて見ていたが、水色のものが見えた瞬間あわてて視線を逸らした。
そして流馬が倒れるのと同時に、少女は翻ったスカートの裾を押さえながら着地。