All right 4
「ふぅー…」
ここは天陽学園男子寮の一室。その部屋の主人である悟は一人優雅に湯槽に浸かっていた。
「疲れたー!!木材運びは足にくるなー…京の奴は楽でいーよなー。異能使ってサボってたも同然だしなぁ…ん?異能…?」
突然かばっと浴槽から立ち上がる。
「そーだ!おれも異能使って運べば良かったんだ!あ〜失敗したー」
そのまま湯槽に沈んでいく悟。
「普通もっと早く気付くだろ…アホか」
再びがばって浴槽に立ち上がる。
「あ、茜!なんでこんなとこいるんだよ」
「別にあんたのハダカを見に来たわけじゃないってば。昼間にくっつけたシールを返してもらいに来たの」
茜の『瞬身』の触媒となるのは2枚のシール。『アカネ』とカタカナで書いたものと『あかね』と平仮名で書いたものだ。
茜が『瞬身』で移動できるのはこのシールの間だけである。どちらか一方でもくっつけたものを忘れてしまうと異能は発動しない。
ここで異能の大原則を説明しておこう。
異能使いが異能を発現させるためには『触媒』と呼ばれるモノが必要となる。それは各異能使いにとって世界で一つだけであり、代用は一切利かない。
天陽学園は異能使いの学校だ。故に、触媒をなくしたり壊してしまった生徒は即退学となる。昼間明希が異常に怯えていたのは、そういった事情があるからである。
ちなみに茜の触媒は勿論先程のシール。一組だけの特注だが、水に濡れても火をつけても傷つかないという優れモノだ。
「あ、あったあった。返してもらうわよ。それと悟、面倒だからって服をまとめて脱いでると、洗濯した時絡まるわよ」
「いいだろ別に……って、他人の洗濯物を覗くなっ!」
クスクスという笑い声と共に茜の気配が消えると、悟は脱力して湯船の中にへたり込んだ。
「あ、そーだ。ひとつ忘れてたよ」
再び茜登場。
「うわー!!なんだよたびたび!?」
再びひっくり返る悟
「明希になんかあった?今日見たら元気なかったから…」
「これ見てみろよ」
風呂から上がった悟は髪をふきながら昼間明希から預かった脅迫状らしきものを茜に見せた。
「ふーん、いたずらにしてはやけに凝ってるわね」 「どう思う?」
「気にする事はないと思うけど、用心するに越したことはないわね。悟、あんたちょっと調べてみて!」
ぶっと悟は飲んでいた牛乳を吐き出した。
「な、なんでおれなんだよ!」
「あんたの異能って色々応用利きそうじゃない。この送り主の特定はできないの?」
「無茶言うな。おれの『言霊』は一日三回まで、しかも発現させる対象に触ってなきゃいけない。それにいつ発現が終わるかはおれにも分からないんだ。そうお手軽に使ってたまるか」
「お手軽に、ねぇ?」
「……なんだ、その目は」
「目の前で好きなコが困ってるのに、助けてあげないようなヤツだったってワケ。見損なったわ」
「あのなぁっ! あ、明希は別に、幼馴染ってだけで、そういうのとはまた別で……」
「嫌いなの?」
「いや、そういうわけじゃ……って、だから無理なものは無理だって! 大体、男子寮は女人禁制だろ!」
「別に、今に始まった事じゃないわ。また明日ね」
部屋を見渡して茜のシールがない事を確認すると、悟はベッドへと倒れこんだ。
手元には例の脅迫状らしき紙。これを『嘘』というキーワードでどうしろというのか。
「起こってもいない事を『嘘』には出来ない、大体『起きた事柄』自体には触れないからこれも無理…」
考えたところで答えが閃くわけでなし。悟は大きく伸びをすると、改めて眠りについた。
―翌日―
「隣のクラスの墨田君っているでしょ?彼に依頼するといいわ。きっと力になってくれる。」
学校に着くなり茜が話をきりだした。
「墨田?あいつが?…ってなんでおれが!?茜が行けばいいだろ!」「あたしは学園祭の準備で忙しい、悟はヒマ、そうでしょ?じゃあねー」
そう言うなり茜は教室を出ていってしまった。
「あぁ…なんかおれみじめ…でも明希のためだし…」
と、自分に言い聞かせ隣のクラスへ向かった。
「墨田っている?悪いんだけど呼んできてくれない?」
茜に言われた通りに悟は墨田を尋た。