パニックスクール 19
呼んでやるととっとっとっと音が聞こえそうな走り方でこっちに来る。
「席探していたんだろ?隣空いているから座れよ」
と洋平は河端と呼んだ女子生徒に座るよう促す。
「ありがと……」
呟くように聞こえるお礼の声と共に促された席に河端は座る。
「魚崎君、その子は?」
やや不機嫌気味に名前を尋ねる絵美。先ほどまでは機嫌がよかったのに機嫌が悪いのは二人で喋っていた空間を邪魔されたからだろう。
それでも自重はするが、声に出てしまう。おまけに洋平はその乙女心に気が付いていない。
「図書委員の河端 里奈だよ。ほら、河端。自己紹介」
まるで妹に接するかのように洋平は自己紹介を促す。
「河端 里奈。よろしく」
「斉藤 絵美よ。こっちもよろしくね」
感情を感じさせないような事務的な返事を返す里奈。人形と感じさせるような表情の無さに戸惑いながら絵美も自己紹介を返す。
「河端。もう少し明るくしないとな。人と接する事もなれないと世の中、やっていけないぞ」
「別にいい……」
「ったく、仕方が無い奴だな。いつも俺がいるとは限らないぞ」
「どっかいっちゃうの?私の前から居なくなるの?」
嗜めた洋平に捨てられた子犬のような、寂しそうな目を向ける。やれやれと思いながら洋平は里奈の頭に手を置く。
そのまま、髪の感触を味わうようにゆっくりと撫でる。
「そうだな。いずれ、俺は卒業しちゃうしな。そうなるといつまでも俺に甘える訳にはいかないだろ?だからさ、人に接する事になれておかないとな。じゃないと困るのは河端だぞ。なっ、わかってくれよ」
頬を染めたままうっとりと撫でられるままにする里奈。その里奈の頭から洋平は撫でるのを止めて手を離す。
「あっ……」
名残惜しそうに里奈の声が漏れる。
「魚崎君、私お邪魔虫みたいなので先に戻りますね」
棘のある不機嫌な言葉で席を立つ絵美。目の前で展開された空気にイライラしてきた。そういうのは私にもして欲しいと彼女は心中に思う。
「お邪魔虫なんかじゃねぇよ。なんつーか、こいつ放っておけないだけで、他意はねぇよ」
もっとかまって欲しいという絵美の隠された願望は見事に気付かずに返す洋平。
「それにしても河端。おまえ、相変わらず小食だな。そんなんじゃちっこいままだぞ」
「別にいい。言わせたいなら勝手に言っていればいい」
もくもくとサンドイッチを食べる河端。おそらくコンビニで買った物であろうサンドイッチ以外は何も無い。
彼女は本の虫と言われるくらいの読書好きだ。ご飯とかは腹が好いた時に食べるぐらいしか無いと思っている節がある。