嘘から始まる恋ゴコロ 5
目の前が霞んだ気がした。
「ありがとう。うん、すごく優しいよ。」
今のあたしはちゃんと笑えているのかな。
答え方・・・ぎこちなくないかな。
翼と話をしながら、頭の中ではそんなことを考えていた。
「じゃあ、俺、そろそろウチ戻るわ。」
そう言って翼は帰って行った。
あたしは何を言おうとしたのだろう。
あたしは何を期待したのだろう。
ははっと空笑いが漏れた。
だけど、自分が考えていたより凹んだりしなかった。
きっと、予想はしていたことだから。
その日の夜、あたしは珍しく夢を見た。
中学時代の懐かしい夢。
あたしの目の前で翼が笑う。
翼が笑っているのが嬉しくて、あたしも笑った。
くしゃくしゃっとあたしの頭をかき混ぜる。
翼にこうしてもらうのが好きだった。
まるで、妹みたいな扱いなんだけど翼の大きな手が自分に触れているのが幸せだった。
だけど、どうしてだろう?
何かが足りない・・・。
心にもやもやしたものがある。
胸が苦しい・・・。
「何か」が何なのか考える。
だけど答えは出なくて・・・。
起きても胸のもやもやが取れなかった。
はぁ・・・ともやもやが残った気持ちのまま俯き加減で玄関を出る。
門を開けると視界に誰かの足元が入ってくる。
「おはよ?」
自分の上から声がして見上げると苦笑いした祐が門の前に立っていた。
「・・・あ。」
思わず声が漏れた。
祐の顔を見た瞬間、もやもやがストンーーーと落ちたのだ。
「どした?」
不思議そうにあたしの顔を見る。
「あ、うん。なんかちょっと落ちてたんだけど祐の顔見たら元気でたみたい。ありがとう」
祐はジィっとあたしの顔を見たまま微動だにしない。あたし何か変なこと言ったかな? 無表情な祐の顔を見て不安になってきた。もしかして、怒ってるのかな。
「あたし今変なこと言った? あの……ごめんね?」
言い終わって、思わず、「ひゃっ!」と変な声が出る。だって、祐に急に抱きしめられたから。どうしよう。耳がみるみる熱くなって心臓がバックンバックン暴れてる。思いもよらない祐の行動に頭がついてかなくて、くらくらしてきた。
「祐……ここ家の前」
「ごっ、ごめん」
どれくらい抱きしめられてたのかわからない。祐がパッと離れて「ごめん」と繰り返した。見ると祐の顔も真っ赤だった。あたしは恥ずかしくて、それを隠すために「顔真っ赤だよ」と笑った。祐も赤い顔のまま笑って「渚だってトマトみたいじゃん」
ふたりで赤い顔のまま笑い合って、ふいにハッとした。