媚薬の罠 986
「パパは眠らないと疲れて死んでしまうかもしれない。ママと仲良くしたら、パパは疲れるだろう。だから、パパにお願いされた時に遊んであげればいい。あとパパが触手ちゃんをいらないって言われたら困るから、ママのほうにもいるのは俺にはわかってる。いい子にしてないとダメだぞ」
檜垣隆史はそう言ってチラッと藤崎柚希の顔を見た。藤崎柚希は赤面している。この人は、黒崎孝義と自分がどんなセックスをしてるか見抜いていると思った。
「檜垣さん、触手ちゃんが柚希にもいるってどういうことですか?」
檜垣隆史は「神眼」を黒崎孝義と藤崎柚希に使い、周波数を合わせるイメージで触手ちゃんに話しかけた。
黒崎孝義にだけ話しかけても「神眼」を使い思念で触手ちゃんに呼びかけてみてもうまく伝わらない。
藤崎柚希にも聞こえるように話しかけてみて、思念をチラッと見て伝えている。すると、触手ちゃんに隆史の思念と声が伝わった。
つまり、触手ちゃんは黒崎孝義だけでなく同時に藤崎柚希にもいる。
「触手ちゃんはパパとママの体にいる。体がないから、幽霊に近い感じだな。あんまりイタズラすると、ふたりから取り出しておふだに閉じ込めちゃうぞ」
檜垣隆史にはそれができる。
天満教の教祖だった北川天の亡霊を、呪符に封印したことがある。
精神科のカウンセラーの藤崎柚希ともぐりのセラピストの黒崎孝義は、隆史が幽霊を閉じ込めると言い出したので顔を見合せた。
「幽霊はいる。触手ちゃん、小西さんに合わせてあげよう」
隆史は黒崎孝義と藤崎柚希の周波数を小西さんのいる夢の領域に合わせた。
実際は周波数ではないのだが、隆史のイメージではラジオやテレビの周波数を合わせて、電波を受信させるイメージでそれが可能だった。
チャネリングの技術は、檜垣家よりむしろ谷崎家に伝えられている。
限りなく広がる青空と、爪先がふれるギリギリの下は波ひとつない鏡のような水面が広がる世界。
黒崎孝義と手を握って浮かんでいる藤崎柚希は、光景のあまりの美しさにうっとりとしてため息をついた。
黒崎孝義は隣にいる藤崎柚希や自分が裸であるのに気づいて、困惑している。
「いらっしゃい。私の夢へようこそ」
幽霊の小西さんがふたりの背後から呼びかけると、黒崎孝義の背中の裂け目から触手ではなく、白い手があらわれた。
「あなたが触手ちゃんね」
小西さんは子供の白い手を握って、黒崎孝義から人の姿になった触手ちゃんを引きずり出して抱きしめた。
黒崎孝義と藤崎柚希はそれを呆然として見つめていた。
「さあ、パパとママのところに行ってみましょう、私の真似をしてゆっくり真似して歩いてみて」
幽霊の小西さんに手を握られて、女の子の姿になった触手ちゃん、顔立ちは柚希に似た幼女はふたりの前にやってきた。
柚希はふらついた幼女を抱きしめた。
「触手ちゃん、小西さんに会えたかな」
(うん、会えたよ!)
「檜垣さん、触手ちゃんが女の子の姿になってました」
「藤崎さんに少し似てかわいい子だったな。小西さんのサービスかも」