忠誠心があるように見せかけ、総統の権威と組織を利用して、自分のやりたいことをする人材たちが、アドルフ・ヒトラーのまわりを囲むことになった。
自分の目的を妨害する同胞には、アドルフ・ヒトラーを裏切っていると密告して始末させる人材に囲まれた。人間不信と不安のストレスは、アドルフ・ヒトラーを衰弱させた。自殺を選ぶ孤立感が、こうして時限爆弾のようにじわじわと心を蝕む。ストレスが最も高まって、絶望すれば、アドルフ・ヒトラーは自ら死を選ぶことになる。
中世以前は神に身を捧げたり、戦争で命を賭ける「栄誉」が最大の価値基準であり、王が自ら出征することもあった。
戦争の領土拡大の政策の時代のさらに前の時代には、王は神に自ら身を捧げ、次の王へ玉座を継承することもあった。王は他の地から訪れる希なる存在であり、それゆえに尊い存在として、神の代行者であるとされた。
しかし、中世社会ではキリスト教における「慈善」こそが、最大の価値基準になった。そのため富裕層の王や貴族は戦争よりも教会の建造やキリスト教の布教のための芸術を推奨し教会を装飾した。
それは、目的としてキリスト教の信者である平民たちに「慈善」を行う者として敬意や尊敬を集め、支配するための投資ともいえた。
アドルフ・ヒトラーは、この中世のキリスト教の支配が全盛期だった頃のようにキリスト教ではなく、総統である自分に国民が敬意や尊敬で従うことを理想として考えていた。
アドルフ・ヒトラーが近代芸術を嫌い、近代美術以前の伝統的な絵画を推奨したのは「慈善」の伝統の時代の支配システムを再現するために投資ではなく、他の新しい時代の作品を殺戮するように、徹底的に処分しようとした。

「生き残る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである」

イギリスの博物学と自然科学の学者チャールズ・ロバート・ダーウィンの言葉をアドルフ・ヒトラーが想像力でつかみとっていれば、中世のキリスト教の支配力が全盛期の「慈善」を根拠とした支配システムが、フランス革命によって崩壊したことの意味を理解できただろう。
宗教に投資する「慈善」の支配システムが、ルネサンス期に入るとまた様相が変化する。キリスト教の支配力が全盛期であれば認められないはずのギリシャ神話をモチーフにした女神のヌードを描いた「ヴィーナスの誕生」を容認した。さらに、この絵画は教会ではなくイタリアの大商人であるメディチ家の別荘の壁に飾られていたのである。キリスト教の「慈善」ではないことに投資が行われた。
１６世紀に、いわゆる宗教改革が始まるとカトリック教会の豪奢な建造物や浪費的な典礼が批判の対象となった。あらゆる濫費を敵視する道徳が広がりを見せるようになる。