「実存は本質に先立つ」

この言葉はフランスの思想家ジャン＝ポール・サルトルの言葉である。サルトルはヴォーボワールの内縁の夫でもある人物である。身体の性別を実存、ジェンダーとしての性別を本質とあてはめて考えると、この言葉はわかりやすい。
実存は実際にそれが在るという現実的な存在そのものであり、本質が普遍的な規定を意味する。
実存は選択の余地がない存在や事実で、本質は規定されたもの。
つまり規定されていることに気がつくことで、別の選択の余地があるということである。
アドルフ・ヒトラーは、１９３３年１月にドイツの首相となった後、またたく間にドイツを一党独裁国家にした。ナチスの政策を実行するために必要な警察権力を組織した。ヒトラーは内閣を説得して非常事態を宣言させ、出版、言論、結社の自由を含む個人の自由を奪った。
１９３０年代初頭、ドイツ国内のムードは落ちこんでいた。世界的な経済不況が国を襲い何百万という人々が失業していた。１５年前の第一次世界大戦でのドイツの敗北は、まだ多くのドイツ国民の記憶に新しく、ワイマール共和国と呼ばれる弱い政府に、かなり自信を失っていた。
こうした雰囲気と状況があり、アドルフ・ヒトラーが、新しい指導者として期待された。
優生学を根拠とした政策を実行しアドルフ・ヒトラーは、戦争で侵略を行っただけではなく、国内で人種差別政策を実行した。ユダヤ人の中には、潜伏したり、ドイツ占領下のヨーロッパから避難したりして、ナチスによるヨーロッパのユダヤ人殺害計画から生き残った人たちもいた。ユダヤ人以外のほとんどの人は、ユダヤ人殺害計画を支援することも、妨害することもせず身を守り関わりを避けた。ユダヤ人の逃亡を支援した人はごくわずか。ユダヤ人を援助した人々の原動力となったのは、ナチスの人種差別主義への反対、同情心、そして宗教的や道徳的な考え方からだった。
まれではあるが、個人だけでなくコミュニティ全体がユダヤ人を救うこともあった。ユダヤ人に協力した人たちは途方もない危険にさらされていた。多くの場所で、ユダヤ人に避難場所を提供することは、死刑かその場で銃殺されることもあった。南フランスのプロテスタントの村ル・シャンボン・シュール・リニョンの住民は、１９４０年から１９４４年にかけて、ナチスの迫害を逃れた数千人のユダヤ人を救った。彼らは危険を知りながら、宗教的信念と道徳的な義務感に触発され、決然たる態度でユダヤ人を保護した。多くの子供を含む難民は個人の家、または周辺のカトリック修道院や僧院にかくまわれていた。ル・シャンボン・シュール・リニョンの住民は、中立国スイスにドイツからの難民を逃すための支援を行った。
ドイツ占領下のヨーロッパの多くのユダヤ人は、武装レジスタンスを試みた。
ユダヤ人の個人やグループは、ドイツに対する計画的および自発的なレジスタンス活動に加わった。
フランスやベルギーでは、ユダヤ人パルチザン部隊が活動していた。