ドイツではエルンスト・ハインリッヒ・フィリップ・アウグスト・ヘッケルという人物がダーウィンの「種の起源」を紹介して広めた。「種の起源」に啓発されたヘッケルが１９世紀から独自の解釈に基づく進化論を説いていた。
ヘッケルの社会ダーウィニズムは、生物学を基本に据え、生存闘争の原理に基づく「新しい倫理」を求めるものだった。これは１９０６年に「ドイツ一元論同盟」を発足させるなど、大きな社会的影響を与えている。
生得的能力差と生存闘争が、人間社会の基本という考え方が生まれた。ダーウィンの進化論から、何が人を進化させるのかを、生まれついての能力差があるたくさんの生物が、生存するために闘争してきて、環境に合わせて進化できた生物だけが生き残って存続できたという考え方である。
進化というよりも、うまく雨風かしのげる場所を見つけられたり、飢えて死なないように食べられるものをうまく見つけられた、他の人類種族や獣に襲われても逃げられて食べらたりせずに子育てがうまくできたなど、状況に合わせてうまく対処できた結果による。
１８８３年にはイギリスの科学者フランシス・ゴルトンがeugenics（優先学）という言葉を作り出した。優生学とは、劣等な子孫の誕生を抑制し優等な子孫の誕生を促進することにより、国家全体あるいは民族全体の健康を図ろうとする学問である。優生学は「民族衛生学」とも呼ばれる。１８９５年にドイツの優生学者アルフレート・プレッツが「民族衛生学の基本指針」を出版し、ここで「民族衛生学」という言葉が初めて使われた。この著書は、ドイツ優生学の出発点となった。
この人種衛生学がドイツにおいては優生学の代名詞となり、とくに第一次世界大戦後になると、ドイツ国家の危機を救う応用科学として、政策にも取り入れられるようになる。
１９２０年にプロシア内務省厚生局に「人種衛生顧問会議」が設立されて、のちに「人種衛生・人口問題委員会」として「プロシア保健会議」の一部に統合された。
ドイツ人種衛生学会の主導権はプレッツのような在野研究者から、内務官僚と専門の遺伝学者の手に移された。国立遺伝研究所の設置運動も起こり、１９２７年にカイザー・ウィルヘルム人類学・人類遺伝学・優生学研究所が設立される。この研究所は、ナチス時代にはナチス人種衛生学の研究拠点となり、ここの研究者たちは人体実験などにも深く関与した。