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媚薬の罠
官能リレー小説 - レイプ

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媚薬の罠 894

そのためには比較させるための人格や膨大な情報をインストールする必要があり、そのためには何年かかるかわからない。さらに時間が経過するほど、世間の人たちの感じかたや考え方が変わるのと、作家自身の20代、30代、40代、50代では、それぞれの何に触発されたかの差異を無視しなければ、新たに何に触発されるのかを予測できない。
つまり、その労力を使うなら、自分たちの作品を描きたいと5人は、このAIに亡くなった人気作家の新作を創作させる企画は、考えたら負けだと思うようになった。特別な企画で良い収入にはなったが、二度とやりたくないというのも、意見が一致した。
親しく敬愛する師匠に憧れて、師匠になりたいと思った弟子たちは、模倣してなりきることで、師匠が世界から消えてしまったことを、葬儀以上に感じ、泣きながら執筆したこの作品は、ファンからは元ネタの懐かしさを感じさせ、元エロマンガ家たちが青年誌や少年誌で連載している原作ありのマンガ作品と比較して、これってエロさが足りないよね、などネット上で辛辣な意見が交わされる始末であった。

「最初は君が酒を飲む。それから酒が酒を飲む。最後に酒が君を飲む」

アメリカの作家フィッツジェラルドは、飲酒について、そう書き残している。

酒に酔って「ええ」「まあ」「はい」しか言わない口数が減った若き官能小説家は、フィッツジェラルドやサガンのように、酒と親友にはなれない作家だと、島田理沙子は同情した。
彼女が何かに苛立ちや倦怠感を感じていて、飲酒が気晴らしさせてくれたと感じて活力を取り戻すタイプの人ではないことが、職業上の経験から島田理沙子にはわかった。

「お酒はいつも私の良き共犯者でした」

「生きることを学び直すのに年齢なんて関係ないわ。一生できることよ」

「人の生き方に反対でも変えさせるのはよくないわ。それに大抵、手遅れだし」

「非常ななまけ者になるのはとてもむずかしいです、何もしないでいられるためには想像力が必要ですし、また何もしなかったことに罪悪感を感じないほど自分に自信がなくてはなりませんし、それに人生がとても大好きでないと駄目だからです」

「いまの時代でもっとも贅沢なことは時間的に余裕を持つことです。社会は人の時間を奪っていますから」

「わたしは商品、品物になってしまいました。サガンという現象、サガンという寓話的伝説……わたしは自分を恥ずかしく思いました。レストランでは、うつ向いて歩いていましたし、人がわたしだとわかるとわたしは恐ろしくてね。普通の人間だと認めてもらいたいわけです、普通に話をしてもらいたいわけです」

フランスの作家フランソワーズ・サガンの小説よりも、島田理沙子は彼女のインタビューの記録の発言に、そっと気持ちに手をふれられたように共感することがあった。
サガンは、理沙子の好きな作家のひとりである。
島田理沙子は、来店する作家が小説の話よりも飼っている愛猫の話が好きで止まらなかったり、子供の頃に食べた駄菓子の話のほうが小説の話よりも好きな場合があるのを「パンドラ」に来店する他の作家たちのことを思い浮かべて、目の前の彼女は何に一番興味があるのだろうと観察している。
だが、今夜は目の前の彼女は酔いすぎていて、彼女の会話のやり取りからは、彼女が生きている世界のなかで何を愛しているか、観察上手な島田理沙子でもよくわからなかった。

(翠さんなら、じっと待ってないで、彼女に一番好きなものは何か、ずばりと聞くでしょうね)

欲望は本来どんな形も取りうる流動的なものであり、家族や国家、社会といった枠を超えてつねに広がっていく。
職業の肩書きと、世界で何を愛しているのかということが一致するとは限らない。
エロマンガ家のメイプルシロップこと緒川翠は、エロマンガに神がいるとすれば神にすべてを捧げている求道者のような人で、職業の役割を本人が抑圧されずに世界を感じるための悦びにしてしまう。ギリシャ神話のミューズ。芸術の神アポロンのそばにいて「黄金のリボンをつけたムーサたち」とも呼ばれる女神たちの末裔といえる。

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