ベランダに干された洗濯物の話から、パンティが無くなった日付と、侵入したと思われるおおまかな時間帯がわかった。

「これでアパートの防犯カメラの確認ができます。あと、合鍵を作るために、近場のホームセンターの鍵屋を利用しているとしたら、店内カメラから侵入者の容姿などが詳しくわかるかもしれません」
盗聴器が仕掛けられた北條真凛は、キャバ嬢だったが、１０日前に辞めたことを探偵の本条恵美に話した。

「証拠がそろったら、警察に被害届けを出しますか？」
「無事にアパートの部屋から荷物は運び出せていますし、わざわざそんな、下着泥棒とは関わりたくありません」
「北條さん、侵入者に思い当たる人がいるのですね。その人は菊谷亨という人ではありませんか？」

ハッとした表情で、北條真凛と時坂静が本条恵美を見つめていた。

「菊谷亨という人は、すでに身柄を警察で確保しています。被害届を出していただければ、証拠を用意して裁くことができますが、どうしますか？」

菊谷亨（きくやとおる）は合鍵で、北條真凛の部屋に侵入した。部屋は空き部屋の状態になっていた。
首をかしげて部屋から出てきたスーツ姿の菊谷亨を、本条恵美は取り押さえて警察に引き渡した。
部屋に合鍵で侵入する様子は、アパートの防犯カメラが録画している。菊谷亨が盗聴器で留守かを探っているあたりで、本条恵美はすでに通報した。
菊谷亨の所持品から、部屋の合鍵や女性の下着が押収されている。下着については、自分の物だと取り調べで菊谷亨は言い張っている。

「この下着は、女装する時に使うんですよ」

取り調べをした警察官は、このまま被害届が出なければ書類送検しても、証拠不十分で釈放するしかないと本条恵美に連絡してきた。

法律上、逮捕されて刑事施設に留置される時間は最大で７２時間。
取り調べが裁判所で許可されると、勾留期間は１０日間、勾留が延長された場合はさらに１０日間、身柄を拘束されることになる。
通常は、逮捕されたら引き続き勾留されることになるため、合計で２０日間余り（逮捕による留置期間最大３日＋勾留期間２０日）までは身柄の拘束ができる。

「防犯カメラの映像が確認できる前に、最初の３日間が過ぎてしまうと菊谷亨の拘留延長は難しいようです。また、証拠不十分で釈放されると、後日、被害届が出ても菊谷亨を逮捕するのは難しくなってしまいます。北條さんが明日、被害届を出してもらえれば、窃盗犯の容疑で拘留して余罪を追及できます。警察に協力していただけませんか？」