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媚薬の罠
官能リレー小説 - レイプ

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媚薬の罠 787

「タクシーの運転手って、もしかして日本中のおいしい店を知ってるんじゃないか?」
「おいしいですね!」

運転手の吉田聡美は隆史と咲がよろこんでくれているので、満面の笑みを浮かべると、モツ煮定食のモツの上に一味唐辛子をぱらぱらとふりかけた。
そのやり取りが聞こえた仏頂面の店主がにやけるのを、店主の妻は一瞬だがたしかに見た。
店主の妻は、隆史たちが食べているモツ煮を作るために、料理人の夫がどれだけ丹精を込めているのかを知っている。
「まゆまゆ」を同じ絶望を抱く病にしようとしたことに後悔している富樫優は、ひどく食欲をなくしていたので、このモツ煮のおいしい店に立ち寄ることはなかった。
ギャンブルの興奮とお金の不安で頭がいっぱいの古賀真由も、別居と離婚のためにタワーマンションに引っ越してしまい、この店のそばを通ることがまったくなくなってしまった。
この少し寂れたような雰囲気のある定食屋に立ち寄る人と、心がなにかにとらわれてふりまわされているので立ち寄らない人には、生きる運命を選択する心の力に大きな差があった。
毎日、誰かがこの定食屋を訪れる。空腹を満たして、その人が外に出る時、すでにその人の世界は、新しいものになっているのである。
今日、少なくとも自分以外の誰かに、ひとつのよろこびを与えることができないだろうかと考え続け、モツ煮を煮込み、オムライスを作り、炒飯を炒め、豚汁をそえる。
オムライスも卵がふわふわで、デミグラスソースがハッとするほどおいしい。仏頂面の主人が、国賓をもてなす高級ホテルのシェフから師匠と呼ばれる人だと知っていて訪れる客はまずいない。
まだ店主が知り合いから店を引き継ぎ開店して1年ほどすぎた頃に、オムライスやモツ煮を食べて、この味の秘密を知りたいと思い、働かせてほしいと言った青年に口数の少ない店主は言った。

「俺もアルバイトなんだ。連絡してみるかい?」

青年は海外のレストランで修行をして帰国したばかりだと、山奥で古い藁葺き屋根の家に鶏を飼って暮らしているオーナーの老婦人に打ち明けた。

「戦後、まだ何にもまわりになかった頃に満州から帰って、雑炊を出す屋台をあそこで夫婦で始めたのですよ」

主人と息子が定食屋をしていたが、ふたりとも彼女より先に亡くなった。

「私は卵の雑炊しか作れませんから、店をたたむつもりでした」

山奥で料理人の青年は老婆から卵雑炊をふるまわれて感動した。

「この卵は、とてもおいしい!」
「鶏を庭に放し飼いにしているだけです。餌がもらえるので鶏がいて、私は鶏のお世話係をさせられている気がしますよ」

老婆は料理人の青年が雑炊をきれいに食べ終えたのを見て、にっこりと笑って言った。
亡くなった息子の親友が訪れ仏壇に手を合わせたあと、俺の思い出の店を残したいと、退職金を老婦人に差し出して、店を任せてほしいと頼まれた話を料理人に聞かせた。
仏頂面の店主に、オーナーの老婦人に島根県まで行って会ってきたことを料理人の青年が話した。

「雑炊、うまかっただろ?」
「はい、とても」
「俺が雑炊をここで同じやり方で作ってもさ、同じ味にならねぇんだよな」

雑炊の作り方は、満州で会った甘栗売りの夫婦から老婦人は教えてもらったと料理人の青年は聞いた。

「見てのとおり、この店が大繁盛してるのを俺は見たことがねぇ。人を雇えば赤字になりかねない。経営は正直ぎりぎりなんだ」

有名な自動車メーカーで車を組み立てながら若い頃の店主は過ごしていた。毎日くたくたになって、働いていた。自分は機械だと思い込まないとやってられなかった。この店に休日に来て、食事する事だけが楽しみだった。

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