媚薬の罠 760
蛇神の淫獄の悦楽はすべての悲しみを忘れさせる。その淫獄の快楽に最も近いドラッグの一瞬の快感に溺れさせようとする心への影響、その果てにあらわれる絶望に、贄として死ぬ凶運の運命がある。
しかし、悲しみを慈しむ心で癒し合う交わりの力もある。愛と豊穣の女神ラーナの影響の護りがある。
檜垣隆史だけでなく疱瘡神の隠(おぬ)となった3人も、蛇神の影響に抗う者たちなのだった。
女教師の坂本明美はドラッグの悦楽に溺れず、レズビアンの性癖と、母性愛に目覚めた。
貴哉が親に内緒で女子とお泊まりデートする事を羨ましがっていた山本直樹は、ずっと両親からの愛情に飢えていて、性欲が強まっていた。貴哉にべったりなのはその心の愛情不足を別のもので癒そうとしているからであった。直樹の感じている愛情不足の飢えは、やがて貴哉を泥酔させてレイプするという凶行へと、衝動的に行動させる運命へと進んでいくはずだった。
山本直樹は珠理の父親の原田亮に性欲が落ち着くまて何度も犯され、肉棒で腸壁側から前立腺を刺激されて、今まで知らなかった自分のゲイの性癖、秘められた性感のありどころ、ドラッグの快楽を教えられた。もう射精していないのに、射精が続くような感覚まで体験した。
脱力しきって原田亮に抱かれている時、山本直樹の心にあった愛情不足の飢えが満たされ、原田亮の濃厚なキスを受け入れていた。原田亮に甘えるように戯れ、息苦しさを感じてぼおっとなりながら、山本直樹は原田亮の屹立したぺニスを咥え、原田亮にされたように、口の中で目を閉じて舌を夢中になって動かした。原田亮が直樹の名前を何度も呼び、泣きそうな声で射精を告げる。名前を呼ばれるたびに直樹は自分が原田亮に求められているのを感じた。
愛されたい。
その飢えが満たされていく。
原田亮が直樹の舌の上に貼りついたぺーパー・アシッドの上に熱い白濁の迸りを放ち身を震わせた。直樹は原田亮の精液とぺーパー・アシッドから滲み出たドラッグの成分を飲み込んで、目を潤ませていた。原田亮は直樹を抱きしめた。
元ヤクザのドラッグディーラー、武井十三が椿の花が咲ききって落ちるように、ドラッグで酩酊したまま飛び降り自殺してしまい、恋人を失った原田亮は、心の穴を娘の珠理を近親相姦してレズビアンの性癖を矯正することへの情熱でごまかそうとしていた。しかし、珠理の幼なじみの榊原貴哉に同性愛の欲望を感じて、恋人に取り残された心のさみしさの穴が埋まる恋の予感がした。
痴呆状態から目覚め、欲望が昴ぶっている時に榊原貴哉から、本当は同性愛者だと気づいていない親友の直樹が目覚めたら、愛情を珠理と詠美を愛しているので受け止めてあげられないと相談された。山本直樹が貴哉たちに誘導されて、原田亮の前にあらわれた時、恋人の武井十三を優しげにしたような山本直樹の顔立ちに胸を奪われた。
貴哉をたとえレイプしても、心は奪えない。そして、貴哉は武井十三とは似ていない。
貴哉が子供の頃のかわいらしい思い出もある。
目の前の山本直樹は、未完成の武井十三のような気もして、武井十三に似た面影のある直樹を、絶対に自分を残して自殺しない恋人にすると決断した。
月曜日、山本直樹は学校を休んだ。担任の坂本明美は、事情を知りすぎているので出欠簿は、山本直樹を登校したようにしておいた。
榊原貴哉から山本直樹は明日は登校するという話を、朝、廊下で聞いている。
痴呆状態でも、原田亮は股間のモノを屹立しっぱなしだった。おそらく山本直樹は疲れきってしまって、登校どころではないのだろうと坂本明美は思った。
「あとは、貴哉くんと珠理の問題だけ」
放課後、図書室で返却された本を戻しながら詠美が貴哉と珠理に言った。
「え?」
貴哉と珠理が顔を見合せると、首をかしげてから詠美の顔を見つめた。
「今のままだと、貴哉くんと珠理は将来的にセックスレス夫婦になりかねない。でも、ふたりともそれぞれ浮気して性欲を発散したとしても、うまくいかないんじゃない。それに貴哉くんは、浮気するにしても、珠理と私も一緒じゃなきゃ満足できないんじゃ大変だから」