媚薬の罠 737
「ええ、なんて?!」
「割り込みをなされますと、他のお客様に大変ご迷惑となりますので」
「この人がならんどったんだから、割り込みじゃないじゃない!」
「観覧車は4人乗りですので、5名様ですと、後のお客様がお待ちになることになりますので」
「ふぅ、そう、あたしらのなかからひとりだけ、列の後ろに並べばいいってこと?」
ボスの豹柄の服装の中年女性が「吉野さん」をちらっと見て、口元を歪めた。笑ったつもりかもしれないが、歪めたというほうが近い。
ボスの豹柄の服装の中年女性が「吉野さん」をちらっと見て、口元を歪めた。
笑ったつもりかもしれないが、歪めたというほうが近い。
「ああ、もういい、早く5人を列からつまみ……待て!」
本部長がスタッフに指示を出した。
「もし、嫌でなかったら、俺たちと一緒に乗りませんか?」
スタッフにボス中年女性が突っかかっている隙に、隆史は「吉野さん」に声をかけていた。「吉野さん」は仲間はずれにされ、ひとりで観覧車に乗るのかと泣きそうな顔になっていた。
「スタッフさん、そちらの4人は先に乗ってもらって。俺らは3人で乗ります」
「いやぁ、そう、悪いわねぇ!」
チッと本部長が舌打ちするのを、スタッフは初めて聞いた。
「しかたない。檜垣様のおっしゃる通りにするように」
隆史と咲、向かいに「吉野さん」が座って観覧車が上がっていく。
隆史が〈神眼〉を使って「吉野さん」を観覧車に相乗りさせた。
「えっと、なんでいじめられてるの?」
隆史が単刀直入に話しかけると「吉野さん」は堪えきれなくなって、泣き出してしまった。咲が「吉野さん」の背中をさすって宥める。
近所の自治会の旅行で、日帰り旅行に来た。去年に「吉野さん」の夫の母親は亡くなったが痴呆で近所を徘徊して迷惑をかけた。庭先で大便してしまったり、訪問して自分の家だと言ったりした。
あと不妊治療をしていて、子供がいないのをからかわれているらしい。
(それだけじゃないんだけど、言わないでおこう)
いじめている中年女性グループのなかに「吉野さん」の夫の不倫相手がいる。不倫相手にも旦那がいるが「吉野さん」の夫が好きで、「吉野さん」が30歳手前で、自分より若く美人だと思っているので、いじわるしているのである。
隆史は中年女性グループのなかでひとりだけ「吉野さん」をたまに、にらみつけている女性が気になり〈神眼〉で思考を読んでみたのである。
「義母のこともありまして、夫が子供ができたら引っ越しすると言ってくれてますから、それまで我慢しようと」
「我慢することで、誰かいいことあるの?」
隆史がそう言うと「吉野さん」が泣いてうつむきながら伏し目がちで話していた顔を上げた。
「妊娠しない原因もよく調べたほうがいいね。ん〜、この病院に檜垣さんの紹介でって電話をかけてみて」