媚薬の罠 736
「水族館スタッフより、檜垣様、女性1名を連れ入館とのこと」
「もう1名はどうした?」
「駐車場にて、タクシーに乗り込みました。運転手と思われます」
「では、私服の警護1名なのか?」
モニターを本部長は確認すると、警備パターンの変更を指示した。
水野咲は私服の警護だと誤解された。
(てっきり服装からもう1名の女性が警護だと思ったが、なるほど、これはお忍びでうちに来られたわけか)
「なんだこれ、ムーミンのニョロニョロがいるぞ」
「ちょっと似てるかも、えっと、チンアナゴ……あっ!」
隆史が咲を見て、ニヤニヤしている。どうやら名前を言わせたかったようだ。
水族館スタッフは、隆史がチンアナゴの水槽の前で首をかしげたところで、説明するために近づくか指示を求めていた。だが、本部長はそのまま待機を指示。
(魚の名前がセクハラになるかは微妙だが、言えと命令したわけじゃなく、自分から言わせたか)
水族館スタッフの緊張の中で、本部長はスタッフに落ち着いて軽率な判断で動かないように指示を出した。
「売店で、サメのぬいぐるみクッションを購入」
「ふふふっ、あれは人気商品だからな。よし、来月から仕入れを10%増やすことにしよう」
隆史が咲のベッドで寝そべるのに、枕のかわりになりそうだと購入しただけなのだが、本部長はぬいぐるみクッションの見た目の可愛さから売れたと判断。
子供に売れるゴマアザラシの白いぬいぐるみクッションが、かわりに10%仕入れの数が減らされてしまった。
遊園地にて。
観覧車に乗るために順番待ちをしていると、隆史たちの前に4人の中年女性が列に割り込みしてきた。
「あー、いたいた!」
「おみやげ買うのに、時間かかっちゃって。ほら、うち、二人もいるでしょ。吉野さんのところは旦那さんだけだから、いいわよね〜」
「観覧車なんてひさしぶり!」
「けっこう人気あるのね」
先にどうやら「吉野さん」を並ばせておいて、自分たちは買い物をしていたらしい。隆史や咲に一声かける様子はない。
「吉野さん」は不妊治療中で子供を欲しがっているのを知っているのに、自分たちは子供がいるから大変だと、子供がなかなかできないので悩んでいる「吉野さん」にわざと意地悪なことを言った。
「吉野さん」はそれでも顔が一瞬ひきつったが、すぐに作り笑いを浮かべた。
「本部長!」
「割り込みした客は列から外せ」
「しかし、騒ぎますよ」
「遊園地から追い出してもかまわん。地方からのバスツアー客だ。旅行会社に、割り込みしないように入園前にパスガイドに説明させるようにしなければな!」
スタッフが、割り込みした主婦の豹柄の服装の女性に割り込みを注意する。豹柄の服装の女性が、5人の中でえばっているボスだと本部長は見抜いた。