奴隷市場 9
私のためにお金を払うご主人さまを見て、嬉しい気持ちと悲しい気持ちが交ざった。
綺麗でもなければ魅力もない。なのに、そんな私に尽くしてくれる。私働いてないのに、こんな服まで買って貰ってしまった。
早く、ご主人さまのために働かなくちゃ。何もしなかったら、罰が当たりそうだから。
「カルアさん、服、ありがとうございます。大切にしますね。」
お店を出るなり、私はご主人さまにまず服を買って貰ったお礼をした。
「ああ。そう言ってくれると、俺も嬉しい。…なんか悪かったな。服、もっと時間かけて選びたかったろ?」
買ってくれただけではなく、私に気遣ってくれる。
「そ、そんな。ご主人さまが可愛いと言ってくれたのに、他の服を見る必要なんかないです。その…私も着てみて、良いなって、思ったから。」
「そうか。なら良かった。」
「あの、カルアさん。私、働きたいんです。…良いですか?」
そう尋ねるなり、ご主人さまが不思議そうな顔をした。
「なんでだ?」
聞き返すご主人さま。私はその理由に答える。
「私、カルアさんのためになることをしたいんです。…そのっ、私。何もしてないのにカルアさんに良くして貰ってるばっかりで、申し訳ないんです。」
私の思いを告げると、ご主人さまは首を横に振った。
「アシュメ、俺はそんな大層なことしてるつもりはないぞ?俺がやってるのは、ただの自己満足だからな。」
「自己満足?」
「…そうだ。だから気にすんな。」
自己満足とはどういう意味なんだろう。でも、ご主人さまが気にするなと言われたから気にしないことにした。
「それに、アシュメは何もしてないだなんて俺は思ってないからな。今でも十分、俺の為に尽くしてくれてるよ。だから、気に病むことないんだぞ。」
「は、はい。その、分かりました」
と思ったけどやっぱり気になった。奴隷としてあるまじき行為になるのかもしれないけど、私はご主人さまを知りたくなってしまっていた。
「ところで、カルアさんは、何のお仕事に就いてるんですか?」
ご主人さまが住んでるお屋敷は、とても広いのだ。私の実家の何十倍ぐらいの大きさはある。
だから、とても良い仕事に就いているんだと思った。
「…傭兵をやってる。」
「傭兵、ですか?」
ご主人さまは頷く。
でも、あまり触れて欲しくないみたいだった。
「ま、アシュメ一人ぐらい食わせて行けるし、お前が不安になることはないさ。…そうだ、じゃ帰ってから屋敷でできる仕事、覚えてもらおうか。」
ご主人さまは、私に何か重大な事を隠している気がした。
お屋敷に着くと、私はご主人さまから皿洗いや料理、掃除や洗濯の仕方を教えて貰う。
ご主人さまの支えにならなくてはと、私の胸(小さいけど…)に誓って、教えて貰ったことを徹底的に頭に叩き込む。
一通り家事の仕方を教えて貰った私は、どうしても腑に落ちない疑問を口にする。
「カルアさんは、どうして私を買ったんですか?」
ずっと思ってた。奴隷市場にいた私を買ったのは、性的な欲求をぶつけるか、それとも強制労働のどちらか。はたまたその両方をさせたいがために、私を買ったのではないのかと。
それなのに、ご主人さまはそれをするように命じるどころか、普通の女の子がするような家事労働の仕方を教えるだけ。