奴隷市場 4
ご主人さまがなにを考えているのか、愚図な私には分からなかったけど、貰った食べ物を吐き出してしまうなんて。
アルヘドたちは、食べ物を吐いたなんて分かったら、殴る蹴るなんていつものことだった。
このご主人さまも、きっと私に罰を下すだろう。
罰を受けるのは恐いけど、より辛い罰を受けるのは嫌だったから。
「ご主人さま」
私は被せられた服を脱いだ。
吐いちゃったけど、ご主人さまがくれたパンは、アルヘドのところで食べたものより美味しかったから、私はそのお礼をしなくちゃいけない。でも、私にお礼をできるものはなかった。だから裸になった。
「ご主人さま。パンの、お礼をさせてください」
でも、ご主人さまは怒った。
「しなくて良い。…どうした、同じことを二度言わせるな。服を着て、今度は吐かないように、ゆっくり食べるんだ。分かったな?」
私はご主人さまをこれ以上怒らせないようにと、服を被り、イスに座り直して言われた通りに、ゆっくり食べることにした。
「そのパン、美味いか?」
私は正直に頷いた。
「そうか、それは良かった。」
ご主人さまは私の汚れた顔を見ながら笑った。
どうして笑ったんだろう。
出されたパンを全部食べてしまった。
ご主人さまは食べなくて良かったんだろうか。
「ごしゅじんさ」
「カルアだ。もうご主人さまはやめろ。」
「カルアさ」
「『さま』付けするなよ。」
「………パン、ごちそうさま、でした」
「ああ、お粗末様でした」
ゆっくり食べたパンの味は、とても暖かかった。
「さて、風呂入るか。いい加減、その身体洗うぞ。」
次は部屋を出て、別の部屋に入る。
すると、ご主人さまが私を裸にした。
痛いことするのかな。ご主人さまは私を次の部屋に連れていく。
お湯をかけられた。
「傷は痛むか?」
首を縦に振る。
「そうか。だが、我慢しててくれ。」
ご主人様は、私を犯すのではなく、私の身体を洗ってくれて、長い間こびりついていた身体の汚れを落としてくれた。
私をどうするつもりなんだろう?
「サイズに合った服がないな。まあ、少し大きめのでもいいか。」
服を着せられるなり、ベッドがある部屋に連れられた。
「お前、名前は?」
ご主人さまは、私を寝かせるなり一緒のベッドに入ってきた。
「奴隷、51番です…」
ご主人さまが怒る。
「ちがう。お前が親に貰った名前だ。」
「………」
パパとママから貰った名前が、出てこない。
思い出せなかった。なぜ思い出せないのか考えていると、目の前に靄がかかった。
「そうか、思い出せないか。辛い目に遭って生きてきたんだな。」
ご主人さまは私を抱き寄せてくれた。あったかい。なんだかわからないけれど、ご主人さまは、私の辛かった思い出を軽くしてくれるような気がした。
この人になら、私の身体を喜んで差し出しても構わない。そう思った。
だから…