奴隷市場 3
屋敷の中は、広かった。
私が長い間生きてきたあの場所よりも。
「何か食べるか。」
ご主人さまは、私を置いてどこか行ってしまった。ぼーっとしていると、いつの間にかご主人さまが目の前にいた。
「はら、空いてるだろ?」
そう言うなり、私はご主人さまの手に連れられ広いテーブルがあるイスに座らせられた。
目の前にパンとお水、果物が置かれた。
「一緒に食べようか」
よく分からなかった。私はまだ何もしていないのに、食べて良いのかが。よくアルヘドから、食べ物を食べる前には必ず口の中に臭いものを入れ、それを舐めなくてはいけなかった。
呆然とした頭で記憶を呼び起こすと、私はご主人さまのを舐めようと思って、ご主人さまのズボンを手にかけた。
「何をしているんだ」
びくっとした。アルヘドたちは、こうすると痛いことをしなかったから。
なぜ怒られたのか分からなかったけど、すぐ土下座しようと身体を縮める。
「それ、やめろよ」
さらに拒否されたから、よく分からずにご主人さまの顔を見る。
どうしたら良いか分からずにぼーっとしていると、ご主人さまが私の口にパンを突っ込んだ。
「ふぐっ!?」
「早く食べろ。喉が渇いてるなら、水も沢山飲んで良いから」
「?……むぐ…」
何か異質に感じた。奴隷51番になってから、タダで食べ物を恵んで貰えることなんてなかったから。私は、このご主人さまにどう奉仕すれば良いのか、目の前に出された美味しいパンとお水を口に含みながら考えていた。
「市場では、やっぱりロクなもの食わせて貰えてなかったみたいだな。」
私がパンを次々にがっついているのを見てるご主人さまがそう呟いた。
「……?」
ご主人さまは私に何を求めているんだろう?
身体は傷だらけで、痩せこけてて、全身垢で汚ない、そんな私に。
「うぷっ……おえっ、げぽっ。」
急に胸が苦しくなり、今まで食べたパンを嘔吐してしまった。ご主人さまが見ている中で、なにやってるんだろう。
ふ…とご主人さまの手が近づく。叩かれるのだろうか?私はびくっとして身体を丸めた。やだ。殴られる。
「大丈夫だ。落ち着いて良いぞ。きっと、胃が反応して食ったもんが逆流したんだろう。後片付けは俺がするから。恐がらないで。ゆっくり食べててくれ。」
「?」
なんで怒らないのだろう?
パパやママでもないのに、失敗したのを咎めたりしないんだろう?
ご主人さまは、私が口から出した汚いものを掃除し始めた。
「……ぁ」
なぜか、声が掠れて思うように言葉がでなかった。
「……ぉっ。」
もう少し。
「どうかしたか?」
私の掠れ声に気づいたご主人さまは、私に声をかける。
「ごめん…なさいっ。そ、その、ご主人さまがせっかく私にくださったパンを、台無しに…してしまいました。」