人肉加工処理場 3
「いえ、今日は見学ですよ、甥は見ての通り珍味には目が無くてね…輸入された「豚」の、しかも鮮度の悪いものでは満足出来なかったようだから、誕生日の祝いもかねて連れてきたのですよ」
「ほお、それはそれは…」
カヤノがチャンに話を合わせ、嬉しそうにするのを見ながら俺もお茶を口にした…お茶すらなにか香りが違う…そもそもC国では人肉を両脚羊と明証し、男は味、女は柔らかさと使い勝手や食べ方まで決めて食材にしていたらしいが…ここはその技法を現代まで残した、背徳的すぎる暴食の楽園、といったところなのだろう…。
「ご満足いただけたようで何よりです…食後の後には仕入れの食材を選びに牧場に向かいましょう、春男君はまだまだ若いですから、他の肉の味見も必要ですかな?」
「ふふふ、それは良かったな春男、これも社会勉強だ、お前も楽しみなさい」
何のことかは解らないが、どうせろくなことではないのだろう…しかし、この味を味わえば癖になり、もう腹ははちきれんばかりに膨れているというのに、目の前の肉片すら貪りたくなってくる。
「はい、わからないことばかりですがよろしくお願いします」
素直に俺は挨拶し、きちんと礼儀を通すため直立しお辞儀をしながら二人を見た。
生きているのか死んでいるのか…それすらもよく解らないが、妹は出来ることなら確実に助け出したい…せめて顛末だけでも知りたい。
俺はそう考えて頭をあげた。
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「豚料理は美味かったかね、春男君…ヒヤヒヤさせられたが、なかなか上手く誤魔化せたよ、君はいい役者のようだな」
食後、VIP用の休憩室に通され、カヤノはホッとしたような表情を見せながらタバコを吸っていた。
「すみません、何から何までご迷惑をかけてしまって…このご恩はどうやって返したらいいか…」
口の中に残る人肉の味に、背徳的な気分と…もしかしたら自分も誰かが愛する女性を食べてしまったのではないか…そんな思いを抱きながら春男はうなだれていた。
「気休めにもならないと思うが…安心したまえ、あの肉はC国で育てた養殖モノだ、子供の頃から豚肉になるために育てられた、いわば究極の人豚…君の妹さんではないことは私が証明しよう。」
カヤノがしゃべりかけつつタバコの火を消し、沈黙が流れ…何かを決めあぐねていた表情が変われば、カヤノは春男に向かい提案した。
「君は口が固そうだし、妹さんが生きていたとして…まあこんな体験は誰も信用しないだろうし、君の記憶を書き換えようがまあ喋ることはないと思うがね…一つ、提案があるんだ…春男君、君は工場と牧場の管理をする気はあるかい?」
「な…と、突然何をっ!!カヤノさんっ!」
カヤノの突然の提案に春男は面食らった表情を浮かべ、そのまま下を向く。
「見たところ君は妹さんと二人暮らしだったようだが…多分仕事の心配もあるだろうし、私が面倒を見よう、この工場自体は提携を望んでいるし、私も日本国内での豚の飼育を請け負われた身なんだがね、何分いくら肉がうまいからと言って飼育するのは気が引けるし、それに表の仕事もある分管理人を用意したい…どうだね?」
カヤノの提案は魅力的だった、そもそも春男は妹を探すため定職にも付かず捜査を繰り返していた身だ、安定した職業はそれだけで魅力的だし、妹の面倒を見るにしても金は必要だ…それに、あの味は…例え記憶を消されたところで忘れられそうにはない。
「わかりました…ただ、もし妹がいなかった時は…」
「解っている、安心したまえ…君の記憶は書き換えてあげよう」
カヤノの言葉に頷いて、春男は軽く頭を下げた。
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「なるほど、甥子さんは日本人…それもうちに捕らえられている女性を食べてみたくて仕方なかったと、なかなか素敵な趣味ですねえ…わかりました、では此方に…」
チャンをうまく誤魔化すために春男が何故豚を食うことに興味を持ったのか…かつて付き合っていた彼女を食い殺したいという衝動を抱えていたことや、行方不明になった彼女を調べていくうちに、豚を卸す自分の存在に気づいて話を持ちかけた…一連のストーリーを考えたカヤノはチャンに効率よく夏美を見つけてもらおうと話を持ちかけ、そのままうまく豚のリストを用意させていた。
頭の下がる思いだが、もしこれがうまく行けば…夏美は何とか助けることが出来る。
俺は消化されている腹の中の豚の魂に頭を下げながら、チャンの持ってきたリストを見ていた。
「あった…彼女だ」
「よかったですねえ、彼女はまだ生きていますし、病気も抱えていなければ処女…肉質は最高級です、では、早速他の豚同様に用意させましょう」