アキラ君の「ちょっと待ってよお兄ちゃん!」 10
空虚な挨拶を交し、パンを手にする。
いつもの空気。
でも今日ばかりは何か異質な物を感じる。
それは俺の性別が変わったから?
『多分、そうじゃないな』
そう言えば今日は、そんな事は気にならなくなってる。
『一晩ぐっすり眠ったから?』
そうかも。でもそうじゃないかも。
パンをかじりながら、そんな事に思いを馳る。
「なぁアキラ」
もきゅ、もきゅ、ごっくん。
「なに?」
返事をした後、牛乳を口に含む。
「お前って、かわいいよな」
ぶぴゅるっ。
「げぇほっ、げほっ、けほ…」
口に含んだ液体が、俺の気管に入りかけ、思わず吹き出しむせ返る。
「うあ、汚ねっ!」
『自分でやらせといて、引くなよ』
「いきな、変なこと、言うか、だよ」
今だ痛む喉を抱えながら、俺はお兄ちゃんに抗議した。
俺はもう、何も言う気がおきず、俺達の間に再び静寂が舞い降りた。
つけっぱなしのテレビからは、気象予報官が異常に長かった梅雨が明けたことを告げていた。
沈黙の間、TVは天気予報は終わり、思わせぶりな占いが始まり途中でCMに入る
いつもは購買意欲をぶち壊す不快なCMに苛立っていたが、今日は苛立ちを感じる余裕はなかった
再び占いが始まるのと同時に俺は口を開いた
「お兄ちゃん」
「何だ?」
俺が沈黙を破ったのを幸いと嬉しそうに聞き返す
「期待しないでよ」
「え?」
「二回も三回もあんな事があるなんて思わないでって言ってるの」
「…」
お兄ちゃんから沈黙のが溢れる
こういう事は先に主導権を掌握するに限る。このまま近親泥沼劇場にしてたまるか!!
「…あんな事って、どんなこと?」
<こ・こいつはぁ〜!!>
認知はしてるけど敢えて直視しないように遠回しな物言いをほじくり返し言葉にさせ相手を羞恥心で雁字搦め(がんじからめ)にする黄金手段
まさかお兄ちゃんが使ってくるとは…
「なぁ、どの事なんだ?色々有りすぎて…さ」
<…さ、じゃないでしょ!>
俺は心の中で泣きが入る
こうなれば被弾が激しくなる前に早くもボム(奥の手)を使うしかないか
「…てやる」
俺は俯いてポツリと漏らす
「何?」
お兄ちゃんは嬉しそうに耳を向ける
「チクってやる!お兄ちゃんが俺とsexしたのも有ること無いことも真由美さんにチクってやる〜!!」
俺は泣いたふりをしながらドアに向かって走ろうとする